2023年7月3日(月)

《もっと強くなりたい。強くなりたいけど、それよりも線状降水帯大丈夫かな。》
【戦士鍛錬場:富田 正継・原田 祐一・大塚 陽菜】
「なかなか順位が上がらんなー」
「上の層が厚いからねー」
 順位パネルを見ながらため息混じりに吐いた富田 正継の言葉に、オレンジジュースを飲みながら大塚 陽菜が笑顔で答えた。ここは午前中の戦士鍛錬場。本日も多くの戦士達が鍛錬を行っている。探索日以外はほぼ鍛錬場にやって来て、指定された模擬戦を行っている。その結果が順位パネルに表示されるのだが、しばらく前から順位が固まったように動かないのである。ちなみに富田の順位は14位、原田 祐一が16位、大塚 陽菜が18位である。
「まあ普通に上から数えたら俺ら16-18番目やから、正継の14位は頑張ってると思うけどな」
 首にかけたタオルで、頬の汗を拭きながら原田がこのように言葉を発した。現在冒険者組織には1期から68期まで66人の戦士系が存在している。そのうちの上位3人はすでに神話レベルの強さなので、そこを別とすれば現在戦士系で最強と呼ばれているのがランク4位で53期の川崎 健介である。
「俺ら60期で、それより古参の戦士が15人いるからな。陽菜に至っては62期だし」
 大きなため息を吐いた後で発した富田のこの言葉を聞いて、大塚は相変わらず笑顔を浮かべている。富田と原田は同い年で、大塚は年齢が1つ下になるので、期としては2つ下で入隊したことになるのだ。
「にしても雷すげーな」
「今日の朝は雷の音で目が覚めたからね」
 外で鳴り響いている雷の音を聞いて原田が言葉を漏らし、大塚がそれに同意する。本日熊本地方には線状降水帯が発生しており、昨日の夜あたりから雷と豪雨で天気は大崩れである。
「どうでも良いことだけど」
 富田が発した言葉を聞いて、原田と大塚は何故か身構える。このような場合の次に出てくる言葉はほとんど本当にどうでも良いことなのだ。
「線状降水帯が大好きで、現地に行って写真を撮る人のことを線状カメラマンって言うのかな」
 思った通りのどうでもいい話に、原田は軽くため息をつき、大塚は乾いた笑顔を浮かべている。小さい頃から幼馴染として育ってきたが、富田のどうでも良い話は何度聞かされてきたかわからない。
「良し、そろそろ休憩も終わりや。次は全員格上勝負だよな。ぶっ倒して来ようぜ!」
 気合を入れた原田の言葉の後で、お互いにタッチをして激励し合う。この後富田は57期の上村 賢太、原田は58期の船木 恵美、大塚は59期の田中 麻里と模擬戦を行ったが、誰も勝つことができず、とぼとぼと先ほどの休憩場所に再集合した。

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