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1990年3月7日(水)

【熊大生協:扇 開次・山村 静香】
「もう、開次どうするの?もう明後日締め切りだよ」
 熊大生協食堂に山村 静香の多少大きな声が響く。周りで食事をしている学生たちが少しざわついたが、扇 開次はまったく動じた様子もなくカツ丼を食している。先ほどの大声は冒険者組織2期生の募集の締め切りが明後日に迫っていることについて山村が扇に尋ねたのである。扇と山村は親同士が仲が良いこともあり、幼稚園から幼馴染としてずっと一緒に過ごしてきた。冒険者組織に興味を持っている山村が一緒にやろうと扇を誘っているのだが、扇はなかなか首を縦に振らない。実は1期募集の時も山村は興味を持ち、扇を誘って応募しようとしたが、その時は明確に扇に拒否をされた。今回は拒否はしていないが、承諾もしないという中途半端な感じが山村のイラつきを増大させている。
「静香が申し込むなら一緒に申し込んでいいよ」
「え、本当!やった!開次大好き〜」
 カツ丼を食べ終えた扇が口にした言葉を聞いて、山村は急にご機嫌になり、バッグに入っていた応募用紙を2枚取り出して記入を始める。その様子を見ながらこの選択が正解なのかどうかを扇は考えている。そもそも募集に後ろ向きだったのは自分がどうこうではなく、幼馴染の山村を危険な目に合わせたくないからだ。
「まあ、いいか」
 小さい声でそう呟いた扇はこれからも山村のそばで自分が守り続けるという決心を固めた。

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