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一緒に暮らす

私が一時帰国をしていた間に、サルヴァトーレは、私たちの暮らす新しいアパートを探していてくれた。

簡単に決めたわけではない。
もちろん、いつも一緒に居たい思いは同じだけれど、相談して時間をかけて、ふたりで決めた。
結局、貧乏学生二人の、最大の共通点は’経済的である’こと。

例えば彼は、自分の試験準備のやり方が、私の迷惑にならないだろうか、、と悩んでいたらしい。 それは随分時間が経ってから聞いた。

大学での試験のほとんどが、試験官の前での口頭試験。

サルヴァトーレの準備の仕方は、想定する質問に答えるイメージを頭に、歩きながら、何度も練習する事。

法律用語を並べた文章を聞いていても、私には全く理解できなかったから、問題などあるはずもなかった。
私の勉強にも、何の支障もなかった。 イタリア語のBGMのようだ。

私は、とにかくキッチンのある所で、イタリアの食材を使って、料理がしたかった。
もちろん彼に、私が作った料理を作ってあげたい気持ちもあった。

日本からペルージャに戻るときに、私は彼に、あるリクエストをした。

駅に迎えに来なくてもいい、チェントロ、コルソーヴァヌッチにある、普段は高くて入らないBar Ferrariで、待っていて。

初めて出会った時よりも、少し軽い目のトランクを引きずり、Barには、私が先に着いた。

あの時の、ドキドキ感は、今でも忘れない。

私の到着を知らせる手紙、ちゃんと届いているだろうか。。

内装が、えげつなくピンクの、なんだかミニスカートのメイド姿の、可愛い女の子が、’ご主人様、おかえりなさいませ’、と迎えてくれそうな場所に思えた。
そんな場所に、長い旅でくたびれ、恋人を待つ私が座っている。

待つこと20分、ゆっくりと歩きながら、サルヴァトーレがBarに入って来た。
嬉しさを、照れくさそうな笑顔で隠して、私の元へ。

恋愛ドラマの再会シーンの主人公になったみたいな私たち。
ユーリズミックスの ’There Must Be an Angel’ が流れていた。

何から話せばいいのか分からず、言葉少なにふたりは、エスプレッソを飲み、アパートに向かう。
最初出会った時と同じように、彼は私のトランクを運んでくれる。

通りの名前を聞いてビックリ! Via Della Sposa,,,,(花嫁通り)って。。。
ペルージャには、妙な名前の通り名があって、ここもその一つ。

ドアを開けるといきなり、そこには石造りの階段があり、二階に上がる。
上がりきった場所にあるキッチンには、プロパンガスがあった。

大きなごとくが2つ、そしてこれがイタリアならではの、小さなごとくが真ん中に一つ。 エスプレッソを作る、カフェッティエラ/マッキネッタを置く場所。 
小さいのに、このガスレンジの主役のように見える。

初日に私は、お米、Risoを使って、リゾットらしきものを作った。
本物のイタリア料理も知らず、なんとなく作ったリゾット。

私には、全然美味しくなかったけれど、それでも、サルヴァトーレは、美味しいと言って食べてくれた。

2部屋のちいさなアパートメント。
これから、ここで二人で暮らします、どうぞよろしく。



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