見出し画像

テレフォン人生相談が趣味だ

人から趣味を尋ねられたことがこの10年はおそらく、無い。                   
何故なら趣味について話す間柄の人がとんといないから。 
                  
でも、尋ねられたときは「テレフォン人生相談を聴くこと。」と答えるつもり。いや、それはない。「ドライブとか、カフェでお茶を飲むことかな。」と穏当に答えるはず。                             

他人の相談をラジオで聴くなんて随分と下世話な人ね、なんて思われるに違いないし、ラジオに向かってフムフムしている自分の姿を想像したらやっぱりちょっと変な人だなって思うもの。         

たかが「テレフォン人生相談」されど「テレフォン人生相談」これまた奥が深いのだ。                                

ちなみにこのラジオ番組、月曜から金曜の午前11時から11時20分までニッポン放送で放送されており、全国の悩める人々の相談事を個性あふれる解答者たちが答えるもの。1972年から放送されている最長寿ラジオ番組である。                                 

そして、ラジオ番組のパーソナリティー、解答者は複数いるが、番組開始から約50年のあいだパーソナリティーとして長年、活躍をされているのが、社会学者、心理学者の加藤諦三氏である。  

学生の頃に、加藤諦三氏の著書を読んで「私はこれまで十分過ぎるほど悩んだ。だから、もう自分を赦してあげても良いのではないか。」とやっと心の底から思うことが出来た。あのとき、駅前の喫茶店で読んだときの光景とおよそ言葉にはできない心に満ちる感情を私は今も不意に思い出す。

あのとき、私の暗闇に一筋の光が差したのだ。思い返せば、このように、とても小さいけど啓示的な出来事が私にはいくつかある。そして、そのおかげで私は今、平凡だが豊かな世界のなかで日々を送ることが出来ている。                 

ということで、敬意を表して加藤諦三先生と書かせていただくが、先生はいつも相談者の表面的な話だけに留まらない。相談者が子供や姑の相談をしていても必ず「それであなたとご主人は上手く行ってるの?」とか「子供時代のご両親との関係はどんなだった?」と一見、相談とは異なることを質問される。          

相談者は予想しない質問に戸惑いながら「普通です。」と答えたり「両親は仲いつも喧嘩をしていました。」などと答える。表面では子供や姑の悩みを装いつつも、夫婦関係に不満があったり、幼い頃に両親からの愛情を受けられなかった寂しさとか、本人も認識できない無意識に抑圧された問題が姿形を変えて別の悩みとして立ち現れるのだ。そして、相談をしておきながら、いざ、その悩みの解決策を示されると、ああでもない、こうでもないと言い出すのだ。何故なら、問題が解決すると、無意識に抑圧している真の問題に目を向けなければならなくなるからだ。なので、本当は悩みが解決されては困るのだ。だから、いつまでもたっても堂々巡りで一向に悩みは解決しないのだ。           

これは私も気が付けばよくやっていることなので、ちょっと痛いところである。本来、手を付けなければならない厄介な仕事を回避するために、別の仕事に手を広げて「忙しくて全然、手が回らないんですよ。」と言い訳をして誤魔化し、先送りをするのである。                          

でも、本当の問題から目を背け続けている限り、その問題は形を変え、いつまでも、何度でも降りかかってくる。                 

加藤先生は、「本当の自分」「本当の問題」に気が付き、それを受け入れることが悩みの解決の第一歩だと話される。「本当の自分自身に気が付いたからもう大丈夫です。これで全てが良い方に向かい、問題は必ず解決します。」と相談の最後に太鼓判を押されるのだ。          

ラジオを聴いていて、私はひねくれているので、「相談者は本当に気付いたのかな。この様子からして全然わかってなさそうだぞ。」などと思うこともしばしばある。                               

加藤先生の問いかけから、徐々に相談者の内面が引き出され、相談者自身が無意識に閉じ込めていた本心(寂しさや怒り、憎悪であることが多い)を解放したときの相談者のカタルシス、それらが浄化されてゆく様子が、声色やトーンの変化から感じられ、いやはや他人事ながらホロリとすることも。      

人は人生のなかで、限られた経験しか積むことは出来ない。しかし、常に、謙虚な気持ちを持つよう心がけることで、他者を通じて得られる学びや教え、様々な感動があることをこのラジオ番組は教えてくれている。

また、実は、加藤先生ご自身が幼少の頃より、父親との関係に大変に悩んでこられ、その苦しい体験が心理学の研究や多くの書物を手掛ける原動力になったことが著書などでも述べられている。こうして、加藤先生は、80の齢を超えてもなお番組のパーソナリティーとして、悩める人々に手を差し伸べ、優しく寄り添い、語りかけるのだ。             

最後に、このラジオ番組を愛する一視聴者として、加藤諦三先生のご健康とこの番組が続くことを心より願っている。                                      

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?