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社会不適合者黙示録 思春期編(10)

「あれ、この部屋靴が多いな。」
明け方見回りに来た先生がその違和感に気づく。本来3人部屋のはずだが、数えてみれば6足ある。こうして我々の悪事は明るみに出てしまったというわけだ。3時を過ぎて眠くなっていたところに、最悪の目覚めだ。まったく、先生方は朝早くからご多忙のようだ。

朝の集い。ホテルの大きな部屋で朝食をとることになっていたが、我々は集会で「違うところで寝ていた人がいる。」と晒し上げられた上に別室での"教育"オプションも堪能することとなった。
「どうしてこんなことをしようと思ったのですか。」
「修学旅行だからと言って気が緩んでるんじゃないですか。」
「君は班長としての自覚がないのですか。」

そこまで怒りのこみあげてくることなのだろうか。無理に触れない方がお互い無駄な体力を消耗しないのに、とも思ったが、きっとそれでは校長に先生たちが"指導"されるのだろう。彼らだって銃口を向けられている側なのだ。

チェックアウト後、バスへ乗車。相変わらず隣は子分Aだが、この日の朝だけは同情してきた。なんで呼び出されたのか、と。このことを話したら呆れていたようだった。いちいち注意することでもないだろ、というのは共通認識のようだ。

帰りの新幹線に乗る前、数十分ほど自由行動の時間があった。お土産タイムなのだが、必ず誰かと一緒に行動しなければいけなかった。しかし、僕にその時間を共有してくれる友人などいなかった。同じ班の男子二人が仲良さそうに店を回っているのを発見した。そこにくっついていこうとしたら煙たがられたので、「僕は時計持ってないから、何時かわかるように見せてほしい」と必死に食らいつこうとしたが、邪魔者扱いされて泣く泣く単独行動をすることにした。ここでも嫌われているのか、と更なる疎外感を覚えた。

しばらくうろついていたら、どこからともなく肩を組んで一緒に行こうぜ!と馴れ馴れしい奴が現れた。こいつとはそんなに仲がいいとは思っていなかったが、攻撃性は無いのでこれが現状の最適解か、と納得することにした。もしかしたら事の一旦を見て同情してきたのかもしえない。もしくはどこかしらの差し金なのかも…と考えることもあったが、このピンチを切り抜けられるなら割とどうでもよかった。

こうして心に重傷を負いながらも東京遠征から帰還した。この修学旅行で何を得たか。何を学んだか。きっと、多くの人が最高の思い出を作り、仲間とのかけがえのない絆を学んだことだろう。厳しいルールは多かったが、これも彼らにとっては今も忘れない青春の1ピースになっているのだろう。

自分はどうか。疎外感を覚え、社会との距離感を学んだ。人と同じものは楽しめない。気を緩められない。敵の数を知った。

ああ、これが社会に適合できない人間の生きる世界なのか。東京にいる間はまだ持ちこたえられた。環境が違うので気持ちを切り替えられるからだ。しかし、帰ってこればそこはいつもの見慣れた地獄。こんな日々がまたしばらく続くのかと嘆くことで学校生活は再開した…

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