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社会不適合者黙示録 思春期編(8)

僕が取りまとめることになった班の構成は、自分含め男子3人、女子3人の6人班だ。他の班も、大体5~6人で一つの班となっている。大体問題児がちりばめられるように構成したのだが、僕の班には例の顔面放棄が配属されることとなった。

このクラスには、小学時代に猛威を振るった、あのガキ大将がいる。彼は授業中に立ち歩くというような、害悪的なやんちゃはしないものの、今も相変わらず群れのリーダーとして、君臨し続けている。いわば、ヤクザの親分のような存在だ。僕としては、あまり関わりたくはないが、直接的な害を及ぼすことはないのでそこまで不快には思っていなかった。

問題はこちらの顔面放棄である。奴は、クラスの中では合唱の委員を務めており、きちんと歌わないものに対して毒を吐く、つまり、触れにくいが仕事はするというタイプの人間であった。個人的に関わるとこの毒を使いこなしている。当時、奴はクラスの中で実際に人気だったのかは知らないが、その毒と高い学力を駆使して女子カーストの最上位に位置しており、男子からは合唱中のおふざけを許さない魔物のような存在として見られていた。そのため、この班の他の女子2人は顔面放棄の側近として、忠誠を誓っているかのように見えた。常日頃から近くで支えることによって、女子カーストの中でも高い位置をキープしようとする目論見なのだろうか。この2人を子分A,Bと呼ぶことにしよう。

このように、僕の班は女子が面倒な存在なのだ。あからさまにこちらを見ながら陰口を繰り返す。他人の悪口は絆を深めるのに最適な手段だ。こうして女子3人衆の結束力は強まっていく。

一方、男子は比較的マシというメンバーだ。女子3人衆のような陰湿さはないため関わっても痛みを伴うことはない。かと言って特別仲が良いというわけでもないという距離感だ。

ちなみに、学校自体は3学期制だが、班及び委員会の任期は前後期制だ。すなわち、少なくとも半年間はこの顔面放棄とともに生活しなければならないのである。3年生になってまたもや最悪のスタートとなってしまった。この前期には修学旅行がある。首都圏に行くのだが、大半は班行動という拷問である。

そんなことを言うなら、いっそ班決めの時に断ればよかったのではないか、と思うかもしれない。しかし、それはできなかった。なぜなら、断る勇気がなかったというのもそうだが、他のどの班にも魅力的なスターが存在しなかったからだ。誰と一緒になっても苦しくもがかなければいけない。どの班にも問題児が所属している。我々班長はどの地獄なら耐えられるか、という判断しかできないのだ。

こんなにも修学旅行の日を怖がるなんて思っていなかった。小学時代の修学旅行は数週間前から楽しみにしていたはずなのに。僕に対する班員からの信用は一切ない。その不平不満は蔭口として3人で言い合っていることは知っている。直接毒を吐きかけてくることもある。中毒になりそうだ。

田舎故に新幹線はおろか電車にすら乗ったことがないものがほとんどだったので、一度体育館で学年全員が新幹線に乗る練習をしたことがある。出入り口の開閉合図役は先生だ。今思えばしょうもない練習だったが、田舎者、なおかつ知恵遅れの者共にはこういう教育から必要なのだ。班ごとに並んでいるのだが、班員から、
「当日は突き落としてあげようか。」
と冗談で言われたことがある。
「旅行先が斎場になってもいいの?」


この時はまだ精神的には余裕がある方だった…

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