見出し画像

空想小説/12

『わたくしに、お任せあれ』

「お困りのようですね」
「はい?」
いい天気だなぁ。散歩でもするかな。
そう思って、ぷらぷら歩いてただけなのに。
「あのー。誰ですか」
「またまた。ご存じのはずですよ」
「いえ、知りませんけど」
変な人なのかも。
ややこしいことにならないうちに離れよう。
「あ、待ってください。わたくしが、あなたの身代わりを」
「え?」
身代わり。それって、つまり…。
「もしかして知ってるの、明日のこと」
「ええ、存じております。わたくしなら、代わって差し上げられます」
「えーっと。ということは」
「はい。あなたに代わって、わたくしが地獄へ参ります」
「ほんとに?いいの?」
「ご安心ください。あなたは、これからもずっと、この世界で楽しめます」
「これからもここで…良かったぁ。内心ピクピクしてたから。…本当にいいのね?」
「ええ。嘘は申しません。明日の予定時間の少し前にお邪魔します」
「分かった。待ってる」
「では、これにて」
ああ。
嬉しい。
私は地獄へ行かなくてもいいんだ。
なぁんだ。
こんなことなら、もっと…。
「ううん、だめだめ。欲張ったらバチが当たる」
でも、本当に良かった。
これで私の秘密は護られる。
あの人も。
「そろそろ行ってもいいかな…」
愛する貴方。
明日の朝に逢いに行くわ。
待っててね。


「…何で?」
「お前は本当にバカだな。騙されたんだよ、あいつに」
ついさっきまで寝ていた。
あの人が身代わりになってくれるんだもの。
そう思って安心してたのに。
気づいたら、死神に首根っこを掴まれて空を飛んでいた。
「ほら、下を見てみろ。あいつが笑ってるぞ」
「へ?…あっ!」
自分の真下。笑顔で手を振る男。
「申し訳ございませーん、わたくし時間を間違えておりましたー!」
「爽やかに言うんじゃねぇよ、この詐欺師!」
「こらこら暴れるな。元はと言えば、簡単に信じたお前が悪い」
ああ。
私って本当に。
どうしようもない。
「ねえ。すぐ生まれ変われる?」
「そんなドラマみたいなこと、あるはずないだろ。バーカ」
あーあ。私の人生って何だったのか。
やんなっちゃうなぁ。
「安心しろ。俺達のボスは心穏やかな人だ」
「あ、そうなの?」
ならいいか。
穏やかな地獄。
そこでどう生きていけるのか分からないけど。
のんびり過ごせるなら、それでいいかも。
「さあ着いたぞ。今日は暖かいな、マイナス20℃だ」

やっぱ地獄。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?