見出し画像

女豹の恩讐『死闘!兄と妹、禁断のシュートマッチ』(7)名勝負。

この数年『G』主催の年末格闘技戦といえば、大人気キックボクサー、ダン嶋原を中心に話題が集まっていた。
しかし、宿命のライバルであった村椿和樹との一戦を制し、もう国内には敵はいない。本場ラジャダムナン&ルンピニーのリングに上がることを目標にタイに渡った。しかし、そんな嶋原をNOZOMIの挑戦から逃げた男という目で見ている向きは多い。

今大会は女子ながらNOZOMIが格闘クイーンたる新たなヒロインとして格闘技界の主役の座に就いた感がある。今、リング上では彼女が企画したジェンダーバトル、男女対抗シュートマッチ、第一戦が行われようとしている。

(実況)

「今、リング上では男子プロボクシング日本フライ級1位の真鍋俊之が、女子高生アマレスラー、桜木明日香を睨みつけています。桜木選手はそれに目を合わせようとしません。既に真鍋選手の目は狂気の目だ!完全にクレイジーだ! この目がマッドドッグ真鍋。狂犬だぁ~! 対照的に桜木選手はどこにでもいそうな普通の女子高生に見えます。この二人が本当に戦うのか!」

この試合、50Kg以下という契約。
計量では真鍋俊之161.2cm 49.5Kg.
桜木明日香は 154.6cm 49.5kg.

真鍋は現在25才、マッドドッグとの異名、ボクシング界きつてのラフファイターであり日本王者を狙っている。
桜木は女子レスリングインターハイ2連覇の女子高生、次期五輪ではメダルも期待できる逸材。
ボクシング界の暴れん坊と、女子レスリング界期待の星の試合がどんなものになるのか全く想像出来ない。ところが試合は意外な展開になる。

ゴングは鳴った。

桜木明日香はレスリング用正装の真紅のシングレット姿で低く構える。
真鍋はブラックのボクサーパンツであるが、いきなり相手の様子を見ることなく飛び込んでいった。
低い構えの桜木に向かってパンチを振り下ろす。目が完全にイッているようだ。微笑さえ浮かべている。
この男には女子と戦うというプレッシャーがないのか? 否、相手が男とか女とか関係ないのかもしれない。
完全に狂っている...。

桜木明日香はボクサー対策の練習も少しはしてきたが、男子プロボクサーの本気のパンチに恐怖を覚えていた。
低い体勢でパンチを防いではいるが、真鍋の振り下ろすパンチが頭部に当たると、今まで経験したことのないダメージを負う。彼女はレスリングという格闘技しか知らない。打撃への恐怖心を抑えることは難しい。

それでも桜木明日香は勇気をふりしぼって真鍋に向かって胴タックルをすると、うまくその下半身に組み付くことが出来た。そのまま両脚をクラッチすると自分の肩に担ぎ上げた。
真鍋俊之は桜木明日香の肩に担ぎ上げられ宙で狂ったように足をバタバタさせている。ボクサーである真鍋にしたらこれは初体験だろう。

桜木は肩車にした真鍋をそのまま自分の身体ごと後方に、マットに叩きつけるとマウントになった。

(実況)

「これは驚きました。 桜木選手の胴タックルは速い!これは防ぎようがありません。真鍋選手を持ち上げマットに叩きつけると桜木明日香がマウントになった。チャンスだ!」

真鍋俊之はマットに叩きつけられた時に後頭部を打ち一瞬意識が飛びそうになった。気付くと女の子が馬乗りになって自分の両肩を抑えつけている。

(小娘のくせに生意気な!)

桜木明日香は真鍋俊之に覆い被さるような形で袈裟固めの体勢。
レスリングルールならフォール勝ちであるが、しかし、レスリングに関節技や絞め技は少ない。どう仕留めようか考えているとレフェリーからブレイクを命じられた。

寝技は10秒ルールなのだ。

真鍋俊之はまだ高校生の女の子に肩に担ぎ上げられ馬乗りになられたことでプライドを傷付けられた。
そして、完全にキレたようだ。

彼はイジメられっ子だった昔を思い出していた。こんな大勢が見ている前で女の子にやられたら、バカにされまたあの頃の自分に戻ってしまう。

ブレイクで立ち上がると1Rの残り時間は45秒。桜木明日香は再び低く構えようとした。その瞬間だった!真鍋俊之が物凄い形相で襲い掛かってきた。

(これはスポーツじゃないの? この目は私を殺そうとしている...)

それが桜木明日香の甘さだった。

恐怖心から一瞬隙が出来たところに真鍋俊之のパンチが飛んできた。何発も何発もパンチを受けダウン寸前。真鍋は容赦がない滅多打ちである。

レフェリーが間に入って止めた。

真鍋俊之のTKO勝ちである。

それでも真鍋は打つのをやめない。両陣営のセコンドが両者を引き離し試合はやっと終わった。まだまだ興奮状態の真鍋俊之に、セコンドに支えられ引き上げる桜木明日香。

一昨年の堂島源太郎vsNOZOMIの教訓から、選手の生命を守る上から危険と判断されれば試合はすぐに止められるのだ。だから一瞬の油断(隙)が命取りになる。特に打撃系の相手は一発で形勢逆転となるので尚更だろう。

桜木明日香は格闘技というスポーツをやろうとしていた。しかし、狂犬と呼ばれる真鍋俊之は生きるか死ぬか?のケンカを仕掛けてきたのだ。

この敗北の経験が後の桜木明日香に大きなものを残すこととなる。
控室のモニターで観ていたNOZOMIがニヤッと笑った。彼女の予想通りの結果になったからではない。
(明日香ちゃんは強くなる。今日はいい経験だったようね)

ジェンダーバトル第二戦。

ハリケーン羽生vs鎌田桃子

これは無差別級として行われるが、羽生は180cm 86kg 鎌田は180.4cm 84kgとほぼ体格は同じ。

NOZOMIに完敗したとはいえ、鎌田桃子はオリンピック柔道銀、レスリング世界選手権銅という実力者。それが男子レスラー相手に通用するのか?
ハリケーン羽生は高校時代までラグビーをやってはいたが、格闘技のバックボーンがないまま帝国プロレスに入った生粋のプロレスラーである。

試合は5分3ラウンドで行われた。

鎌田桃子の柔道、レスリング仕込みの実力は本物だった。そしてボクシングテクニックもかなりのもの。
組んでも離れても試合を支配しているのは鎌田桃子に見えていた。
見えていたのだが、よく見ると羽生はプロレスラーの本能なのか、、鎌田の技を受けていた。それに、やはり男のパワーは一枚上。だからこそ、受けられるのだろう。

素晴らしい試合になった。
NOZOMI戦では何もさせてもらえなかった鎌田桃子だったが、彼女の持ち味がハリケーン羽生によって存分に発揮され観客は大いにわいた。
36才のハリケーン羽生は最終ラウンドにスタミナ切れで動きが鈍くなったが試合は判定に持ち込まれた。

3 - 0 の判定で鎌田桃子の勝利。

しかし、これは格闘技戦というよりプロレス的な試合で名勝負となった。
敗れたとはいえ、さすがハリケーン羽生はプロレスラーであった。
シュートマッチながら処々で鎌田桃子の技を受けその魅力を引き出した。
男女間の戦いであっても名勝負は可能だということを証明したのである。

ジェンダー・バトル、男女対抗シュートマッチ。

第一戦

○真鍋俊之(男子プロボクサー)
     1RTKO
  ☓桜木明日香(女子レスリング)

第二戦

○鎌田桃子(女子総合格闘家)
     判定
 ☓ハリケーン羽生(男子プロレスラー)

ここまで1勝1敗。

注目の村椿和樹とNOZOMIの試合が始まろうとしていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?