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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(11)ケンカ空手少女


格闘技戦を興業する『G』は、年に夏と年末に大きな大会を2度開催する。

7月末の大会に向けて対戦カードが発表された。女子ながらNOZOMIの試合がメインに置かれると思われたが、対戦相手がどうしても決まらない。
それも当然で、昨年末の vs村椿戦を見て恐れをなしたのか?NOZOMIと戦おうという格闘家が現れない。
勿論、女子相手ではNOZOMIは危険が多く話題性もない。NOZOMIの対戦相手はどの格闘技であっても一流の男子選手でなくては意味がない。

NOZOMIもダン嶋原も出場しない大会は目玉カードがなく寂しい限りであるが、そんな中でマスコミ各社を驚かせるカードが発表された。

「先の大会で話題になったのが、男女対抗シュートマッチですが、この大会でも一試合だけ異性格闘技戦を行うことが決まりました」

そして、主催者側からそのカードが発表された。

「女子代表は、KG空手女子王者、シルヴィア・滝田(18才)。そして、男子代表は、元幕内力士、雷豪(34才)」

マスコミ各社はざわついた。

シルヴィア滝田といえば、ケンカ空手で有名なKG会で、高校3年ながら日本最強女子であり、父はアフリカ系アメリカ人で元プロボクサー。ライトヘビー級世界6位にまでなった。母は日本人で元陸上スプリンターであった。
シルヴィアはそんなアスリート一家のサラブレッドなのだ。

女子高生時代のNOZOMIが “天才美少女ファイター” と称されたなら、シルヴィアは “ケンカ空手少女” と言われている。彼女のえげつないケンカ空手殺法は男子選手をも恐れさせている。

対する雷豪といえば元幕内力士で、最高位は前頭13枚目。ところが、稽古嫌いのギャンブル狂で酒癖が悪く角界でもその素行の悪さは有名だった。
彼は3年前に暴力事件等不祥事を起こし角界から追放、廃業している。
その後の彼はどうしていたのか?良からぬ噂もあったが、こうして公に雷豪の名が出たのは3年ぶりだ。

雷豪は186cm 185kg の巨漢。
シルヴィアは174cm 68kg。

いくらケンカ空手少女の異名があるとはいえ、相手は元幕内力士でありこの体格差。試合になるか?以前に危険ではないのか?の声が上がる。
身長で12cm 体重は120kg近く違う。

「シルヴィア選手はNOZOMIさんの推薦でこの大会の出場が決まりました。彼女はNOZOMIさんの練習パートナーでその指導を受けています。元幕内力士相手に、自分の空手がどこまで通用するか? 楽しみにしているそうです。試合は総合ルール、3分3ラウンドで行われ両者共異存はないそうです」

ケンカ空手少女シルヴィアがNOZOMIの練習パートナーで指導を受けているのは意外だった。となると、彼女は空手以外にも何か秘めているのか?

国進スポーツの荒木記者から主催者側に質問があった。

「シルヴィア・滝田選手が所属する
空手流派KG会といえばケンカ空手で有名ですが、確か一昨年にNOZOMI選手と戦った故堂島源太郎さんも、キックボクサーになる以前に所属していましたよね? 因縁を感じますね...」

「はい! シルヴィア選手は幼い頃、堂島さんに指導を受けたことがあるそうです。堂島さんも彼女の素質を大変買っていたようですね」

それから、もう一つビッグニュースが『G』の方から発表された。

「それから、今大会では無理ですが、以前から話のあった、ダン嶋原選手とNOZOMI選手の試合が大晦日の大会で実現しそうです。現在は細かいルールの打ち合せ中ですが、基本的にはキックボクシングルールで実現しそうなので期待していて下さい」

主催者側がここまで公に発表するのだから間違いなく実現するのだろう。
会場は大いに湧いた。

翌朝。
堂島龍太はスポーツ紙によって、憧れのダン・嶋原とNOZOMIの試合が実現しそうなことを知った。しかし、複雑な思いがあった。彼はいつかNOZOMIと戦いたいという大きな夢を持って日々鍛錬を積んでいる。

(その日までNOZOMIさんには無敗でいてもらいたいのだけど、嶋原さんとの試合はキックルールになりそうなのか?それじゃ、嶋原さんが勝つに決まっているじゃないか、、父ちゃんは寝技でも何でもありの総合ルールで戦ったんだ。女相手に自分の100%有利のルールで勝っても意味がないよ...)

それでも、龍太は嶋原が大好きなので勝ってもらいたい。
龍太にしても、嶋原と共に憧れていた村椿和樹選手がNOZOMIに倒された時は大変なショックだった。

それから、7月の大会でケンカ空手少女、シルヴィア・滝田が元幕内巨漢力士と戦うのを知り目を見張った。
龍太もシルヴィアが所属するKG会空手に所属し彼女と面識があるからだ。
龍太は都内の支部に所属し、彼女は横浜の支部だが、3年前に一度稽古をする機会があった。

女子とはいえ当時彼女は中学三年、龍太はまだ小学四年生だったのだ。
ムキになって思いっ切り向かっていったが、彼女は軽く龍太をいなすだけで体力も技術も全く問題にならない。
それでも彼女に「堂島源太郎さんの息子さんでしょ? 龍太君は絶対強くなるよ。小さいのに凄い気迫...」
そう褒められた時は嬉しかった。
褐色の肌に長身、あの時のシルヴィアさんの威圧感は凄かった。

(でも、相手が大きすぎないか?あの巨体に彼女の蹴りや突きが通用するのかな? 逆に体当たりされたら大変だ)

7月末の格闘技大会3日前。
シルヴィア滝田はNOZOMIとのスパーリングで最後の仕上げに入っていた。

「シルヴィア、どう?もうすぐ試合だけど、相手の雷豪さんの巨体を見て恐怖を感じない? アナタも格闘技デビュー戦だけど、雷豪さんも同じ。緊張するだろうけど、あっちのプレッシャーの方が大きいと思う。何も考えず思いっ切りケンカしてきなさい」

「はい! 恐怖を感じないと言ったら嘘になりますけど、突いて、突いて、蹴って蹴って、それでも倒れなかったら更に突いて蹴り倒します!」

先の格闘技大会では女子レスリングの桜木明日香が男子プロボクサーにレフェリーストップで敗れたが、それは彼女に心の弱さがあったからだ。
対してシルヴィアは戦うことに何の躊躇もない。それに天性のストライカーであり、ピンポイントで相手の急所を突く技術はいかにタフな力士上がりといえども倒れるだろう。
それに雷豪は試合間近だというのにあまり練習をせずにお酒ばかり飲んでいるという噂だ。性格だろう。

(シルヴィアは簡単に元幕内巨漢力士を血の海に沈めてしまうかも...)

その頃、雷豪は女とリングで戦うことのプレッシャーを忘れるためにお酒を飲んでいた。元幕内力士の俺が高校生の女の子に負けるわけがない。
(ぶちかまして張り手で終わりだ!)

本当は格闘技デビュー戦に女の子となんて戦いたくない。
でも、ギャンブル狂の彼は多くの借金がありこのオファーを受けた。

人の良い堂島源太郎が、騙されて投資話に乗り借金を抱えたのとは根本的に違う。雷豪の場合は自業自得なのだ。

そして、大会当日を迎えた。

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