見出し画像

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(42)吹き荒れるNLFS旋風。


その年も大晦日になった。

恒例の『G』主催の格闘技大会。
今ではこの大会は男子vs女子のシュートマッチなしでは成り立たないほど
人気になっている。

あのNOZOMI vs 村椿和樹で倒された村椿がリング上からNOZOMIに対する思いを訴えた大会から2年経った。
それからの2年間でNOZOMI、シルヴィア滝田、鎌田桃子、桜木明日香、奥村美沙子は2試合ずつ行い、あの天海瞳もデビュー戦を飾った。

その11試合は女子勢(NLFS)の9勝2敗。
女子勝利試合は全てKOあるいはタップにより男子を打ち負かしたもの。
(負け試合はシルヴィア滝田と鎌田桃子が各一度判定負け)
堂島源太郎vsNOZOMIから続く異性格闘技戦は、これで通算で女子の20勝8敗(エキシビション含)になった。

もう、女子が男子を倒す光景は当たり前のようになり、ファンもそれを観たくて会場に足を運ぶ。しかし、一部には疑問の声も少なくはなかった。NOZOMIは別として、NLFS勢は勝てる相手ばかり選んでいるのではないか?
しかし、それは仕方ないことで、男子選手は怖気づきオファーを受ける者は稀だったからだ。受けるのは負けてもリスクの少ない中堅以下の無名選手。それも売名目的が多い。名のある男子格闘家は女子に負けた時のリスクを考えれば受けたくないのだろう。

このままでは、いずれ飽きられてしまう。そんな声もあった。
しかし、NOZOMIはそんなに心配していなかった。

女が真剣勝負で男を倒す!

NOZOMIは男子と初めて戦った、堂島源太郎戦のことを思い出していた。

堂島源太郎がNOZOMIの腕の中で失神し、その身体を解放するとリングの中央にドオオッと倒れた。
(雌蛇の罠その17参照)
あの時の地鳴りのような大歓声は凄いものだった。否、あれは歓声というより驚愕の叫びだったのかもしれない。皆、女が男を倒す光景がショッキングで信じられなかったのだろう。あれから考えると、今では女が男を倒す、男が女に倒されるシーンを違和感なく見られるファンも少なくない。男が女に負けても恥ずかしいことではないという考え方も浸透してきた?

(こういう世の中を願ってきた。私のやってきたことは間違っていなかった。でも、まだまだだと思う)

今年の大晦日格闘技大会。
NLFS勢は4人参戦する。

まず登場してきたのは桜木明日香。

総合格闘技、前MMA50kg以下級日本王者が故障のため電撃引退。
その空位の座をかけて8人によるトーナメントが行われた。
このトーナメントは今夜が一回戦。
来春に準決勝が行われ夏に決勝戦。
桜木明日香はその一回戦に出場した。

これは女子の部ではなく、男子のトーナメントなのだ。女子ながらそこに参戦すると聞いて抵抗した男子選手もいたようだが正式に認定されるとどうにか今夜を迎えることが出来た。

「軽量級は女子でも男子に対抗出来ると考えています。私は全力で男子に挑み腰にベルトを巻くつもりです」

相手は安田圭介。
彼も明日香と同じくアマレスから総合に転向してきた若手で、レスリングでは国体出場経験がありMMAに転向してから5勝2敗の成績。

5分3ラウンドで行われた。

開始と共に両者低い姿勢から相手の出方を窺うと、女子世界一とも言われた明日香の高速タックルが決まった。
すかさず安田の上になると得意のマウントパンチを繰り出す。
明日香は高速タックルからテイクダウン、そこからマウントパンチという一つのパターンを徹底的に練習し、ここ3試合全て相手を秒殺してきた。
しかし、トーナメントに出場してきた安田は今までの相手とは違う。

安田はマウントパンチから巧みにガードすると下から三角絞めを狙う。
明日香もそれを振り払い、その後はお互いレスリングをバックボーンにした者同士、レスリングでのグラウンドの攻防になっていった。
スピードとテクニックの明日香に対し安田はパワーで対抗してくる。同じ体重であっても男子のパワーはやはり一枚上なのだ。膠着状態のまま1ラウンドも残り少なくなった時だ。

スタンディングからいきなり明日香のストレートが安田の顔面にヒット。
レスリングの構えから繰り出されたので意表を突かれた安田は防ぎきれなかった。安田は打撃戦はあまり得意な方ではなくそのままダウン。

再び明日香はマウントになると拳を真上から落とした。もう、安田はガード出来ずパンチの雨あられ。
それを見たレフェリーが間に入った。

(実況)

「桜木明日香強い! 男子の最軽量級トーナメント、女子ながら一回戦を難なくTKO勝ち。準決勝進出決定です。女子が男子を破りこのトーナメントを制するようなことがあれば大変なことになります。歴史が動きます」

この試合を見ていたNOZOMIは思う。
最軽量級には男子の人材が少ない。
競技人口が少ないからだ。それに較べ女子は重量級は少なくとも軽量級は人材が豊富なのだ。
女子が男子より格闘技向きではないとされてきたのは、その競技人口も影響している?いても本気でやる女子は稀だからとも思う。

(明日香はこのトーナメントで決勝まで必ず進む。でも、決勝の相手は王島守だろう。かなり手強い...)

その後の試合。
NLFS 2番手は奥村美沙子。

相手はMMA日本フェザー級9位。
初めての日本ランカー相手に序盤はそのパワーに押され気味。
得意の密着戦法も相手の攻撃を防ぐだけで精一杯。美沙子得意の関節技、絞め技に移ることが出来ない。
しかし、密着からコツコツと細かいパンチを相手の顔に打ちつけている。
地味で一発の威力はないが試合が進むにつれ相手の顔面が腫れてきた。
最終ラウンドになると、目がふさがるほど腫れ上がっていた。

ドクターストップ!
美沙子が格闘マジックを魅せた。

3番手に登場はシルヴィア滝田。
相手はMMA日本ウエルター級6位

静かで地味なグラップリングの攻防から最後は打撃戦の末相手を倒すとパスガードで相手はたまらずタップ。

強い!

人材豊富な男子ウエルター級で6位の相手に完勝したのは相当強い!
シルヴィアは鎌田桃子を超えNLFSでは今やNOZOMIに次ぐ格闘家になった。

最後はNOZOMIの登場。

相手の見つからないNOZOMIとのオファーを受けたのは無名の外国人MMAファイターだった。

「あの女、本当に強いのか?」

そう言って興味本位で挑戦してきたのだが相手ではなかった。役不足。

およそ試合というものではなく、まるで練習相手とスパーリングしているような展開になると...。

なんと!NOZOMIはプロレス技であるコブラツイストで相手を沈めた。

この大会の異性シュートマッチも、女子勢の4戦4勝。
その全てKOかタップを奪ったもので、通算で女子の24勝8敗となった。
とくに今夜は男子日本ランカーから勝利もあり相手は強かった。

誰がNLFSをストップするのか?

男は女より弱いのか?

NLFS旋風が吹き荒れている。

しかし、本当の戦いはこれからだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?