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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(43)ワンナイトトーナメント

半年が経った。

堂島龍太は高校三年になり、KG会空手U-18全国大会では準優勝。高校柔道全国大会でも初めてベスト8まで進むことが出来た。
周囲は空手、柔道の両方で才能を発揮した彼に「さすがは堂島源太郎の息子だ...」と言うけれど、そんな声の中には「でも、女に負けて命を落としたキックボクサーの息子」という声も少なくないのを龍太は知っている。

本当は純粋に父を超えるキックボクサーになることを夢見ていた。ダン嶋原や村椿和樹に憧れてもいた。
しかし、その前に立ちはだかったのが
NOZOMIこと山吹望だった。
父も嶋原も村椿も彼女の前に無惨にも倒された。尊敬するキックボクサーが女に負けてしまった悔しさ。

龍太は打倒NOZOMIを目指している。

そんな簡単な相手でないことは分かっている。否、このままでは何年経っても絶対勝てないだろう。
何といっても、あの総合格闘技無差別級で、かつて日本絶対王者と言われた渡瀬耕作を敗れたとはいえKO寸前まで追い込んだ女なのだ。
あの敗戦にしても紙一重だった。

NOZOMIは雌蛇と形容され史上最強の天才女子格闘家と言われるが、そんなものではない。あれは突然変異の女子ファイター。雌蛇というより異界からの使者、魔女の化身なのではないか?
龍太はそう思っている。

龍太が幼い頃からやっていた空手に併行して、中学から柔道を始めたのは、
打撃だけではNOZOMIに絶対太刀打ち出来ないと考えたからだ。
更に生前の父源太郎が所属したジムでは、継父となった今井宗平にキックの指導を受けており、最近ではNOZOMI戦に臨む父源太郎に組技への対策アドバイス、指導をした(雌蛇の罠その3参照)岩崎トレーナーからもグラップリングの指導を受けていた。

空手や柔道は道着だが、リング上ではそれはない。より、実践的な技術を身につけなくてはならないからだ。
龍太は常々思っていた。
(自分の総合格闘技での実力はどの程度のものなのか?試してみたい...)

そんなある日のこと。
龍太の元へ願ってもないオファーがジムを通じて届いた。

それは夏と大晦日に行われる格闘技大会を運営する『G』からのものであった。NOZOMIらNLFS勢と同じ日にリングに立つ。夏の大会7/30である。
空手や柔道で実績があり、ジムでもキックやグラップリングのトレーニングを積んでいる堂島龍太の噂は限られた格闘技関係者に知られていた。

『MMA甲子園。第一回ワンナイト・トーナメント(70kg以下)』

全国の格闘技猛者の高校生8人が参加し、一晩で一回戦、準決勝、決勝と行われる過酷なものだ。

「そんな過激な大会に出たいの?」

母の佐知子は顔をしかめ、継父になった今井も最初は難色を示した。
しかし、もう龍太の気持ちは収まらない。それ以来、今井や岩崎と大会に向けて日々トレーニングに励んでいる。
大会迄あと一ヶ月である。

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NLFS勢も夏の大会に向けて練習を積んでいた。
麻美も寮友榊枝美樹らと一緒にトレーニングを積んでいた。今日はシルヴィア滝田の胸を借りてスパーリング。
最初は全然問題にならなかったが、最近では攻め込む場面も珍しくない。

「麻美はどんどん強くなってるわね。この分だと来年夏の大会にデビューすることは確実ね...」

スパーリング後、シルヴィアに褒められた麻美はちょっぴり嬉しい。

この夏の大会では、NOZOMIとシルヴィア、天海瞳は出場しない。
鬼コーチ鎌田桃子はどういうわけか?
最近では帝国プロレスに戦いの場を移している。女子部もある帝国プロレスだが、鎌田は男子レスラーと真っ向から戦っても遜色がない。
脚本があり真剣勝負ではないプロレスであっても学ぶことは多いのだ。
前回の大会でNOZOMIがプロレス技コブラツイストで相手を倒したのは鎌田と練習してきた成果であった。

この夏の大会に出場するのは3人。

去年大晦日の大会で最軽量級トーナメント一回戦に勝利した桜木明日香は、
春の小さい大会で準決勝を行いそれも勝利した。前半は押され気味で苦戦していた明日香だったが、次第に相手は明日香の女子特有の動き、リズム、間合いに戸惑う。明日香もNLFSで女子の身体の仕組みを活かしたトレーニングを積んでいる。従来の格闘技の基本、定石に精通していればいるほど、このNLFS勢相手だと翻弄されてしまう。
従来の格闘技セオリーは男対男を前提としたもの。
NLFS女子相手ではそれが通用しない。
常識が覆されてしまう。

明日香は相手のちょっとした隙を突いて変形タックルからテイクダウンを奪うとマウントパンチで仕留めた。

この夏の大会ではトーナメントの決勝が行われる。明日香が男子に混じり優勝して王者になったら?
しかし、相手の王島守はかなり強い!

それから、正式デビューから連勝街道を歩んでいる奥村美沙子の相手は?

なんと! あのダン・嶋原である。
それも、総合ルールで行われる。

この異色対決は大変な話題だ。

嶋原は村椿とのNOZOMI戦への挑戦権を賭けた一戦後は5連続KO勝ちを続けている。しかし、NOZOMIに対しては沈黙を続けている。
キックボクシングルール以外の経験がない嶋原はどうやって戦うのか?
奥村美沙子にしても、今までの相手とは全然違う。彼女の真価が問われる。

それからもう一人の出場選手は?

彼女は16才になりこの大会でデビューすることになったのだ。

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ワンナイト・トーナメントに向けて必死にトレーニングを積んでいる龍太の元に、ジムの会長がやってきた。

「龍太! 7/30の大会での出場選手とその組み合わせが決まったぞ...」

「そうですか!誰が相手でもドーンと来い!ですが、一回戦の相手は?」

会長は言いにくそうにしばらく龍太の顔をジッと見つめていた。

「龍太! お前の一回戦の相手は柳紅華。韓国籍の16才、高一の少女だ」

「リュウ、ベニカ? 高校一年の少女ですか?...」

「で、でも、、男子の大会では?」

「柳紅華はNLFSの練習生で、16になったのでこの大会でデビューさせたいそうだ。紅一点だが、NOZOMIは自信を持って送り出す。当然、優勝を狙うそうだ。彼女はテコンドーと、韓国相撲シルムの経験があるそうだ」

龍太は複雑な心境だ。

女子、それも自分より2つ年下の女の子が相手なのだから。。。

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