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女豹の恩讐『死闘!兄と妹、禁断のシュートマッチ』(5) ジェンダー・バトル

2○○○年 9月15日。

大晦日に行われる格闘技戦のカードがテレビ中継を通して発表された。

最大の話題は “ダン嶋原 vs NOZOMI” の究極の男女シュートマッチになると思われていたが、嶋原陣営から都合がつかないとのことで実現せず。

ドリームカードが立ち消えとなりがっかりするファンは多かったが、主催者側から発表されたそれに代わるカードに驚かされることになった。

メインは総合格闘技王者 渡瀬耕作と、元柔道王 大田原慎二の再戦。
この両者は一昨年の大晦日格闘技戦、
つまり、堂島源太郎vsNOZOMIが行われた大会でもメインを張っていた。

ファンが驚かされたのはその前に行われる三試合であった。

発表されたのは?

『ジェンダー・バトル! 男女対抗シュート・マッチ三番勝負』

これだけでは意味がよく分からないので関係者から簡単な説明があった。

「これを企画したのはNOZOMI選手であります。彼女はこれからの時代は格闘技もジェンダーレスになるのではないか?女子だって男子に引けを取らないということを証明したい。どこまで通用するかは分からないが、女子から男子へのチャレンジ・マッチ三番勝負を行いたいという提案です」

「それで、、誰と誰が試合をするんですか? この時期ですから提案段階ではなく、カードは既に決まっているんですよね?」と、ある記者の質問。

「はい! まず第一試合目。プロボクシング日本フライ級1位真鍋俊之(25)に、レスリング女子50Kg級インターハイ2連覇の桜木明日香(18)が挑みます。これは50Kg以下契約、寝技は10秒までというルールです」

桜木明日香というビッグネームに会場がざわついた。彼女は次期五輪強化選手でもある。その高速タックルが男子ボクサー相手に通用するのか? 真鍋も真鍋でよくこんな危険な相手を、オファーを受けたものである。

「第二試合目。帝国プロレス所属、ハリケーン男の異名を持つハリケーン羽生(36)に、総合格闘技女子無差別級元王者鎌田桃子が何でもありの総合ルールで挑みます」

鎌田はNOZOMIとの試合で敗れはしたが女子に相手はいない。ハリケーン羽生も中堅の人気男子レスラー。体格もほぼ互角でこれも興味深い試合。プロレスラー羽生が、女子相手に真剣勝負を受けたのは意外であった。

「そして、第三試合目。NOZOMI選手と対戦するのは・・・」

会場はシーンと静まり返った。
誰がNOZOMIと戦うのか?

「NOZOMI選手と対戦するのは、キックボクシング、スーパーライト級F団体王者、村椿和樹選手です!」

オオオ~~!
会場がどよめいた。

村椿といえば、あのダン・嶋原と団体の威信をかけた世紀の一戦を終えたばかり。完敗したとはいえ、依然、キック界では嶋原に次ぐビッグネーム。
嶋原はNOZOMIとの対戦から逃げるように姿を隠しているが、まさか村椿和樹がそのオファーに応じるとは...。

「村椿選手とNOZOMI選手の試合は、3分5ラウンド、63Kg以下契約。スタンディングのみのルールとなります。」

すると、一人の記者が質問する。

「スタンディングのみ? つまりキックルールということですか?」

「いいえ! グラウンドでの攻防はなしということで、スタンディングでの状態であれば打撃も投げも関節技も絞め技もありということです」

真鍋俊之(25) 男子プロボクサー
   VS
桜木明日香(18) 女子レスリング

ハリケーン羽生(36) 男子プロレスラー
   VS
  鎌田桃子(27) 女子総合格闘家

村椿和樹(28) 男子キックボクサー
   VS
  NOZOMI(19) 女子総合格闘家

この男女対抗シュートマッチ三番勝負が正式に発表された。  

どの試合もどんな展開になるのか?
全く想像が付かない。

女子レスリング桜木は、男子ボクサーのパンチを掻い潜ってタックルを決められるのか? テイクダウンのあとどう極めるのか...。
真鍋もその軽快なフットワークで桜木のタックルを防ぎ切れるのか?

鎌田桃子のパワーは男子レスラーに通用するのか? NOZOMIとは対照的に男子選手のようにマッチョに鍛えられた肉体とパワーは男子レスラーにとっても脅威だろう。

そして、得意の寝技を禁じられた状態でNOZOMIはどう戦うのだろうか?
村椿和樹といったら、ロートルであった堂島源太郎とはわけが違う。
苦戦必至! NOZOMIはよくこのルールを飲んだものである。

堂島佐知子はテレビを観ながら、ついにNOZOMIは動き出したなと思った。
夫、源太郎との試合で相手を死なせてしまった彼女は、もう二度とリングには立たないとまで悩み抜いた。
しかし、それでは命を懸けてまで自分と戦ってくれた堂島源太郎を無駄死にさせてしまうことになる。
きっと、NOZOMIは堂島源太郎の思いも乗せ、自らのイデオロギーに向かって戦い続けるつもりなのだ。

NOZOMIさん、ありがとう。

“抑圧されてきた女性の隠れた強さを証明するためにも私は戦う”

NOZOMIは夫との試合を前にそう語っていた。最もジェンダーギャップが激しいと思われる格闘技で女性が男性を倒してこそ世間に男女差などないことを証明できるとも語っていた。

今後のNOZOMIさんの活躍に期待するわ。アナタは私の主人を倒した女性なのだから...。佐知子は嬉しかった。

堂島龍太はNOZOMIと対戦する村椿和樹がスタンディングのみルールで戦うことに複雑な思いだった。

“ 父ちゃんは寝技でも何でもありの不利なルールで戦ったんだぞ。スタンディングルールで戦えば村椿さんが勝つに決まってるじゃないか!”

龍太としては村椿選手に憧れに近い気持ちがあるだけに納得出来ない。

堂島麻美はジェンダーバトル3番勝負の第一戦で、男子プロボクサーと戦うことになった桜木明日香の名前にハッとした。麻美はレスリングを始めて一年半が経つのだが、徹底的に練習してきたのはタックルだ。
それは桜木明日香という女子高生の高速タックルを見てからだ。この高速タックルを自分も極めようと決心した。

桜木明日香は麻美の憧れなのだ。

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