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妖しく倒錯的世界に導かれて(18)僕の彼氏の予感。

あの当時、新宿二丁目にあった『G』には月に2度ほどの割合で通っていたと思います。勤務地は上野から四谷に変わっていたので比較的近かったですね。仕事は第一、第三だったかな?その土曜日は半日仕事だったので、その午後から通うことが多かったと記憶します。夜になるとそこそこ混んでくるけれど昼過ぎだと空いていて落ち着けるんですよね。

すると、そこでちょくちょく見かける一般男性客がいました。彼はいつも一人で来ては、誰に話しかけるともなく黙々と飲んでいるのです。ガタイがよく女装するタイプではなさそうなので誰か目的の女装子がいるのかな?とも思いましたが、そんな気配もない。

“ この人何が目的で来てるのかしら?”

だって、変ですよね?

土曜日の昼過ぎにやってきて黙って飲んでいるだけなんですよ。
飲むだけなら暗くなって普通の焼き鳥屋かなんかに行けばいいのに...。
しかも、近付きがたい、話しかけづらいオーラを発していた。

前回の更新でも書いたように、彼は俳優の村田雄浩さんに似た雰囲気。

Gのサロン?内での私は、麻里さんをはじめ、仲の良い女装子友達とハシャいだり、そんな私たちを構ってくれる一般男性客と冗談を言い合っていたのですが、彼は黙って飲んでいるだけ。
最初はコワそうな人だな、、と思っていたのですが、よくよく観察すると人が良さそうでシャイな感じ。
そのうち、私は彼が気になって仕方なくなってしまいました。

私は大きくてシャイな人が好き。

これより先、彼のことを『黒木さん』と仮に呼ぶこととします。


ある時、黒木さんの方をチラチラ観察していると何やら新聞に目をやりながらラジオを聴いている。

(あ、競馬中継聴いてるのね...)

すると、新聞から目を離した黒木さんと目が合ってしまった。
なぜ、あんな気持ちになってしまったのでしょうか? 目が合った瞬間に私は妙にオドオドして恥ずかしくなってしまったのです。
自分はノンケの男ですよ。いくら女装していたとはいえ、あんな気持ちになったのは初めてでした。

黒木さん以前にも個人的に会った男性はそこそこいましたよ。
でもそれは○○○を目的としたお互いに割り切った関係に過ぎません。

目が合った瞬間の黒木さんは照れくさそうにその目を逸らしました。
(ああ、この人はとてもいい人だ...)

私の全身はかぁーっと熱くなる。

「あの、、競馬好きなんですか?当たりますか?」

「え! ええ、、好きなんですけど、あまり当たらなくて、えへへ」

黒木さんとの初めての会話でした。

私はその後も黒木さんに話しかけました。ガッシリと大きく、とてもやさしそうで、彼はとてもシャイですが話しかける私に丁寧に答えてくれた。
それを、私と一緒にいた女装子友達が不思議そうに見ていた。

「ねえ!アナタたち(私と黒木さん)出来てるんじゃない? 妬けるね...」

皆がいる前でそう言ったのは麻里さんだったかな?恥ずかしくて私は赤面してしまいました。

「はいはい、カップル誕生! ほら陽子ちゃん、彼の隣に行きなさい」

みんなに冷やかされました。

夕方になると、黒木さんは用があるので帰るという。本当はそれから二人でデートしたかったのに残念でした。

私は黒木さんの帰り際に付け文を渡しました。といっても、電話番号を書いて “ また逢いたい” とだけのメモでしたが、それからのふたりは。。。

(次回に続く)

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