【短編小説】僕の彼女

翠ちゃんと付き合って3ヶ月経つ。
側から見れば本当に普通のカップルで、僕も彼女のことを大切に思っているし、ある程度恋人同士でするスキンシップは一通りしたし、別に愛されてないとは思ってない。ただ、ひとつだけどおぉぉぉぉぉおしても彼女に願い出たいことがある。
それは、彼女から『好き』って言って欲しいということだ。

僕の彼女はとっても恥ずかしがり屋だ。
彼女に一目惚れした僕は、文字通り付き纏うレベルで彼女に話しかけてなんとか話してもらえるようになった。その後、計10回告白したけど、最後の最後に折れてくれるまでの9回は、返事をもらう前に逃げられたり、曖昧な返事でごまかされたりした。だから、そんな彼女が付き合うことをOKしてくれた日にはベットの中でちょっと泣いた。
そんなこんなで、死に物狂いで勝ち取った彼女の“恋人”というポジション。自分でこれだけ迫っておいてなんだが、普通に最初は嫌々付き合ってくれてるんじゃないかとヒヤヒヤしていた。でも、「翠ちゃん好きだよ」「今日もはちゃめちゃに可愛い食べちゃいたい無理」「翠ちゃん可愛すぎてあかん!ダメですおうちにいて下さい!」などとデレを全開にしていると、頬を赤くして、頑張って目を合わせないようにしつつ、行き場のなくなった感情を落ち着かせるみたいに僕の服の袖をギュッと握ってきたり、今までだったらあり得なかったけれど、彼女がらスキンシップを求めてくれたりもする姿を見ていると、言葉にするのは苦手でも、彼女なりに僕を好きでいてくれるんだと感じる。素直にめちゃくちゃ嬉しい。
でも!!!!!!!!!翠ちゃんが僕を好きって言ってるのを見たいいいいい!!!!!泣
できれば録音もさせて欲しい!!!!!と心の中で日々思っているのである。

そこで、僕は彼女にある作戦を仕掛けることにした。その名も「直談判」。文字の通りである。回りくどい行動は彼女にも僕にも向いてないし、何より僕はこの勢いと真っ直ぐさで彼女を恋人に出来た自負はあるので、これしかないと思った。ただ、彼女の体を自由にすると逃げられる可能性があるので、逃げられないように対策を練らなければいけない。

「翠ちゃん〜ちょっとこっちにきてくれる〜?」
『宗くん、どうしたの?』

ぴょこぴょこ部屋から出てきた、可愛い、好き。つい口から出そうになったけど、ここで逃げられたら本末転倒なので、ぐっと我慢する。

「ん〜なんでも無いけど、僕の可愛い翠ちゃんを近くで見たいなと思って。だから、お膝乗ってくれる?」
『...ただ乗ればいいの?』
「うんうん!乗るだけでいい!」

膝に乗って照れてるの可愛い...というか普通に可愛いって言っちゃったけど、まあいっか。彼女が、しっかりと膝の上に座ったことを確認して、彼女の背中に腕を回して逃げられないように対策して、向き合って抱っこするみたいな体勢にした。

「翠ちゃんにひとつだけお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「私にできることなら...?」
「『好き』って言ってくれない...?」
『...え!?』
「ちゃんと翠ちゃんが僕のこと好きでいてくれてるっていうのはちゃんとわかってるよ?でも、どうしても翠ちゃんの口から聞きたくて...うわあああやっぱり女々しいよな!?ごめんなあああこんな彼氏でええ泣」

なんか急に不安になって、つい色々口走ってしまった。いつもこんな調子だ...。翠ちゃんも、気まずそうにしてるしやらかした...これでまた距離できちゃったらどうしよう...。
頭の中は絶望と不安で大パニックだ。

『ねぇ、ぎゅーしてくれる?』
「え!?するする!」

彼女は僕の首に手を回して、僕の耳元に唇を寄せた。


『宗くん、好き』


はあ? 無理、可愛すぎる。どこでそんなん覚えてきたの!? 変な虫ついてないよね? えぇぇ待って好き...

彼女は、僕がぽかんとしてる一瞬の隙に僕の腕から抜け出して、キッチンに向かって行った。

「翠ちゃん!!!!!待ってぇ!!とりあえず一回ハグさせて!!!泣」


今度は僕が好きっていう番だ。


作者 : 碧

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