【短編小説】クールなあの子

綺麗な桜が咲き乱れる春、私は2つ下のクールな君に恋をした。
 今日は桜ヶ丘高校の入学式。新入生たちの初々しい姿とこれからの学校生活に期待をするキラキラした目が懐かしいなあ。
「新入生たちは、きらきらしててまぶしいな。私も生徒会長としてしっかりしなくてはいけないな」
「そんなに気を張らなくても、十分しっかりしてるよ、一華は」
「ありがとう、夏希」
私を褒めてくれる心優しいこの子は夏希。中学からの親友だ。明るくて元気な彼女は、私の癒しだ。
「ねえ、なんか、あの子目立ってるね~!背おっきいー!何センチあるんだろ?」
「ほんとだ。私も背は高い方だけど、それ以上だな。」
176㎝ある私の身長をはるかに超える高さだった。190㎝はあるんじゃないだろうか。
「でも、目立ってるの背の大きさだけじゃなさそうだね」
ふふっとでもいうように楽しそうに夏希は笑って言った。確かに、背の大きさだけではない。その美しい顔の造形に皆の目が釘付けだった。当然だろう。すらっとした体格に、猫の毛のようなふわふわの髪、スッと通った鼻筋、切れ長の目。そして、宝石のようなヘーゼルカラーの瞳。本の中から飛び出してきたような美しさだった。
「かっこいいね、あの子。ねっ、一華!...一華?」
「あ、ああ、そうだな...」
「どうしたの?あ、もしかしてあの子に一目ぼれしちゃったとか~?なーんちゃっ…」
「ああ」
「って?…えっ?!まじ?」
もちろん私の目も彼に奪われていたのだ。こんなに美しい造形をした人間がいるのかと驚いて言葉が出なかった。
「きゃー!一華、私応援してるからね!」
「は?なんのこと?」
「なんのことって、彼に恋しちゃったんでしょ?」
「えっ?!いや、そういう意味ではない!」
「もうそんなこと言って、顔真っ赤だよ?いちかぁ~」
夏希はニマニマと楽しそうにしている。
「そ、そうなのかな?こんな経験は初めてでよく分からない。」
「そうだよ!まずは、お友達からだね!」
「う、うん」
半ば強引に話を進められている気もするが、夏希からの助言?もあり、まだ名前も知らない彼と友達になろうと決意した。
 友達になろうと決意したのはいいが、接点がなさすぎる。学年も違ければ、新入生だから部活にも所属していない。私はいったいどこで彼と会話をして距離を縮めたら良いかわからず、とりあえず観察してみることにした。
観察してわかったことは、口数が少なく無表情とまではいかないが、あまり表情が変わらない。勉強は学年1位をとるほどの秀才で、運動は苦手でも得意でもない。そして、もちろんだが男女ともにモテる。なんだ、彼はただのハイスペック男子か。いや、私がこの競争率に勝てるわけなくないか???私が持っているものと言えば、生徒会長としての権力くらいだが??なんの武器にもなっていないが??
ドンッ。そんなよく分からないことを考えながら歩いていたら、誰かとぶつかってしまったらしい。
「すみません!よく前を見てなくて…」
「…あ、いえ。こちらこそ、すみません」
「…っ!?」
「……?」
まさかこんな形で彼と出会うとは予想していなかった。驚きのあまり声が出ず立ちつくしてしまったせいで、目の前の彼を困らせてしまった。
「…あの、何か?」
「あ、いや、その、お詫びを!私の不注意で君にぶつかってしまったからな」
「君、名前は?」
「…橘ルイです」
「ただぶつかっただけなので、お詫び、いらないです」
いや、まあそうだよな。ただ、ちょっとぶつかっただけだもんな。私も彼の立場だったら彼と同じこというだろうし。焦りすぎて、変な態度を取ってしまった。最悪だ、これで彼の私への第一印象変人決定だ。そう心の中でうなだれていると、じゃあまたね、一華せんぱい、と言い行ってしまった。
「あ、ああ、引き留めてすまなかったなー!」
彼の背中に向けて叫び、私と彼の出会いは終わってしまった。ん?いや、私は名前言ってないよな?何で知ってるんだ?
 そんな出会い方をした私と彼だが、数日後、誰がこんな展開になると予想していただろうか。
「あの~、た、橘君?手、離して欲しいのだけれど!」
「確かにお詫びをするとはいったのは私だけれど、橘君いらないって言ってたよね??」
誰か、私の目の前にいる甘えてくるこの子を説明してくれ。いや、可愛いけれど、あれ?クールなあの子はいったいどこへ?
「やっぱり、いります。腕、痛かったので。」
「だから、お詫びに、一華せんぱい…」

「ねぇ好きって、、言って、?」

作者 : あきふゆ

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