【小説】つれづれ草(1)
これは、なんだろう。
口の端を白く汚しながら、動かしていたブラシを止めた。
ああ。今、自分は歯を磨いていたのか。
なんて思いながら、背後が小さく映る鏡を覗き込んだ。壁に直付けされている小さな流し台に体重を預けるのは心許ないが、思わず両手をついて身を乗り出す。が、当然ながら鏡が自分でいっぱいになるばかりで映り込むものは見えなくなった。
「・・・・・・・。」
鏡から離れ、昨日のシャワーで濡れた気持ち悪い床で足裏をすべらせながら振り返った。あるのは、薄暗い台所。積みあがった食器。濡