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空中のアフタヌーンティー

よく行く近所のスーパーのスイーツコーナーは
寿司や魚売り場の続きに突如現れる。

「同じ冷蔵品なんで、ええよね・・」
というのが店側のコンセプトのようで、納豆や豆腐も一緒に置いてある。

「ひかえめに言ってクリーム多めのシュークリーム」98円や
「ヤマザキ・ロールちゃん」200円(細長いロールケーキ)に
混じって「渋皮のモンブランケーキ」280円を見た時は、違和感を覚えた。

高級そうなのである。

食べたことはないので想像の域を出ないが
敷居の高いホテルのケーキセットで出てきても納得の佇まいなのだ。

試しに買ってみると想像の上を行く美味しさで、その後もついつい
手が伸びた。

しかし、ある日パッタリと見なくなった。
1年ほど前の事である。

コロナ規制が少しずつ緩和され、久しぶりに人が集まる場所でワイワイと
話す機会があった。
人と会う事が制限され、マスクや黙食に慣れて、うまく言葉が出ない日々が続いていたのに
意外にも一瞬でコロナ前に戻り、盛り上がって会話を楽しんだ。

しかし、悲しいかな。
話題の中心が
2000円~7400円のアフタヌーンティー」の話になった時
ついていけなくなった。

2000円のセットはちょっとな・・(しょぼいな)』

やっぱり、せめて5000円くらいのじゃないとねェ』

『思い切って7400円行ってみる?

という友人たちの会話が頭上を舞う。

なにしろ、こちらは280円のモンブランとネスカフェ
十分幸せに浸れる身である。

いや、むしろ贅沢な気分ですらある。

最低価格でも『2000円のお茶を優雅に頂く』という
状況を楽しめずに、アワアワする自分が見える。

目の保養にとすべてのアフタヌーンティーセットの写真を
見せてもらったが、どれもが異次元だった。

しかし。
大切なのは、こういう時間に身を置くという事なのではないか。
自分の知らない事や、これまで興味のなかったものでも
自らその知識を得ようとすることで広がる世界がある。

頭上を飛び交っていたアフタヌーンティーの話題は
私がトイレに行ってる間に
思い切って7400円の店に行こう」とまとまったようだった。

友人と別れた夕方、最寄り駅を降りて、いつものスーパーに寄った。

もしかしたら、豆腐や納豆にならんで
「渋皮のモンブランケーキ」があるかも知れない。
ひそかに期待してチルドケースをのぞいた。

いつのまにかスイーツ売り場は縮小され
かわりに鯵の開きなんかの干物のスペースが広げられていた。

すみっこにあったヤマザキのエクレア98円を買う。

家路をプラプラ歩きながら
7400円のアフタヌーンティー、どうやって断ろか・・」と
ちょっと思ったが、
ま、誘われんわな!と思い直してホッとした。

私の新しい世界は、まだまだ広がりそうにない。








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