見出し画像

創作BLオメガバース短編

『愛でした。』

 身体を繋げるのは苦手だった。
 最中、無意識に頸を噛まれて、どうしようもなく番になれない事実を突き付けられているようで。
 男同士でアルファとベータ。番にすらなれなくてもあいつは愛してくれた。その愛さえあれば、それだけでいいと自分に言い聞かせ続けてきた。
 だけど、抱き締められるたび、口付けられるたび、繋がるたびに虚しさを抱いてしまうようになった。
 どう足掻いても俺はあいつの運命の相手にはなれない。その思いが俺の心に影を差した。あいつの愛を疑っているわけじゃない。むしろ、あいつはきっと俺のためなら運命も捨ててしまう。
 俺なんかを愛したせいで、幸せな家庭を築くことができなくなったあいつが、哀れで、愛おしくて、離してやることなんて出来なくなってしまう。
「愛してる。ずっと一緒にいよう」
 そう言ってくれたあいつに素直に頷いてやることも出来ないのに、縋りついてしまう。
 みっともないと思う。情けないと思う。女々しくて、後ろめたくて、愛というには穢れすぎた。
 俺もあいつのために全て捨ててしまいたかった。俺があいつにしてやれることは、全てしてやりたかった。
 俺にはそんな覚悟もなくて、自分の愛の小ささに嫌気がさす。愛しているのに、同じだけの愛を返せない。
 大きすぎるあいつの愛は、俺には眩しすぎる。
 それでも、いつか来る別れに怯えながら愛するような臆病な俺を、どうか離さないで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?