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【超短編小説】 夢なし子の独白

「将来の夢や目標はありますか」

 面接で、聞かれて困った。

 どうして将来に夢や目標を持つ必要があるの? ましてや、どうしてそれをただの面接官であるあなたに話さなければならないの? あなたはどんな答えを期待しているの? 将来の夢や目標が、ここで働く事と繋がらなかった場合、私は落とされるの? というか、そんなことを面接で聞くなよ。金が欲しいんだよ。相変わらずこの世の中は、働かなきゃ生きていけない作りになってるんだよ。それとも応援してくれるっていうの? 短時間勤務を、夢を理由に承諾してくれるってことですか? まさか夢が叶わないことを前提に、諦めたあとの永久就職を狙っているとでも言うんじゃないでしょうね? 永久就職なんて時代遅れも良いところなんですけど。


「ありません」


 素直に答える私はバカだ。 結婚と言えば良かった? 子供は二人くらい欲しいですねと答えれば良かった? 女子にとって虚しい嘘をつけば良かったの? それともスポーツ選手になりたいですとか、ユーチューバーになりたいですとか、子供みたいに語れば良かった? この歳でと笑われれば良かったの? それとも、上を目指しますなんて言葉ですべてを濁せば良かった? そんな欲、とうに捨ててしまったというのに。 無作為だよ、無防備だよ、無気力だよ。なんで生きることに、目標や夢が必要だなんて言っちゃうの? 働くことが生きていくことでしょ? 生きるために働くんでしょ? 生きる上の義務じゃないか。小学校に通うのと何が違うの? どうしてそこに、意味を見いださなきゃいけないの。ニーズに答えるだけの世の中でしょ。そこに夢なんてあるもんか。こっちの都合とそちらの都合が合致すれば問題ないはずでしょ。働く意思と体力以外に必要なものなんてないはずでしょ?


「そうですか」  面接官が静かに、視線を反らす。 夢や目標を聞いてどうしたいんだ。気力ややる気を計りたいの? 諦めない姿勢を見いだしたいの? 自主性を見たいというの? 金を稼ぐことに自主性は必要ないというのに? 働くことには自主性が必要なんて、どんな矛盾だ。 私は、夢や目標のせいで笑われてきたのに。笑われる自分を捨てた私は、世の中に必要ないと、今度は振り落とされてしまうというの?

少しでも良かったなと思ってくださった方は
イイネ、よろしくお願いしますm(_ _)m


 

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