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vol.22 長柄八幡宮


(どうしよう、早くに着きすぎちゃった)


 バイトの面接。道に迷ったり、遅刻したりしないよう、早く出た。二十分かかるという道に、一時間の時間を当てた。その結果が、三十分の空き時間だ。

 慎重に慎重を重ねた結果の空き時間に、萌は途方に暮れた。

 見知らぬ場所。近場にカフェも見当たらず、歩き回るのも憚られた。時間潰しで遅刻なんて、情けないことは避けたい。

 萌は面接会場のそばで立ちすくむ。辺りを見渡し、目と鼻の先で時間を潰せそうな場所はないかと視線を巡らせた。しかし目に入るのはビル郡と、大通りを走る車だけ。あとは目の前を通りすぎる、帰宅する小学生が二人。楽しげなその様に、萌は羨ましさを感じずにはいられなかった。面接前の緊張感に、嗚咽を漏らさずにはいられない。

 萌はスマホを取り出すと、再度、時間を確認した。小学生の下校時間にしては遅い時間。とはいえ、まだ辺りは夕暮れに染まったまま。その儚さに、なんとも侘しい気持ちになった。面接の前なのに。気合いいれなきゃいけないのに。自然と、ため息がこぼれた。

 響いてきた笑い声につられて、思わず視線が動いた。そこには歩道橋を仲良く歩く、先程の小学生がいた。塾帰りかな、なんて揺れるランドセルを見送る。姿が見なくなっても、二人の笑い声を追いかけた。階段を下りてきた小学生を、スマホ片手に眺める。その先に、あるものを見つけた。


(神社だ!)


 歩道橋に隠れて気づかなかったが、道路の向こうに小さな神社があった。思わず、テンションが上がる。萌は時間を確認すると、駆け足で歩道橋へ向かった。

 階段を上がる。視線が自然と空を見上げたる。夕暮れ空が、とても綺麗だ。

 一段と高くなった視界に、心が少し浮わついた。面接場所が目に入って少し心がチクッとしたが、笑顔でごまかしてすぐに視線を反らす。跳ね上がるような足取りで神社に向かって、鳥居を前に背筋を整える。姿勢を正しながら、まるで面接官を前にしてるみたいだと、萌は苦笑した。

 一礼して、石の鳥居を潜る。四角い石畳の一本道を進み、まっすぐに拝殿の前に立った。

 一礼して、お財布をまさぐって、五円がなくて十一円を転がし入れる。お鈴が鳴らせなくなって、やっぱり物足りなさを感じながら、ニ礼した。住所に名前に、願い事を唱えようとして唾を飲み込んだ。


(バイトに受かりますように……! 縁があればで良いので!)


 ギュッと力のこもった手が、祈りのポーズになって、ハッとしてすぐさま手を広げた。最後に一礼で締め括り、拝殿に背を向ける。スマホを取りだし、時間を確認する。まだ二十分前。ココから面接場所までせいぜい五分強。十五分前に着くのは、丁度良いのか早すぎるのか。

 唸りながら一歩一歩進んで、時間を稼ぐ。不意に人影を見つけて顔を上げると、鳥居の脇でお兄さんが神社の外を眺めていた。視線の先には、パチンコ店の看板があった。


(もしかして、パチンコの勝利祈願……?)


 確か八幡様って、勝負事の神様だっけ。なんてお兄さんの背中に思いながら、萌はガッツポーズをした。勝利の喜びではなく、意気込みのために。

 萌は鳥居の前で翻り、気持ちを新たに一礼した。



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