【エッセイ②】名古屋散歩とマッドマックス
一人旅で名古屋へ行ってきた。四月二十一日はあいにくの雨。春休みでも何でもない日曜に訪れたので、滞在時間は五時間にも満たなかった。
というのも、とある漫画に影響されて居ても立っても居られず名古屋行きを決行したためである。その漫画は、ホテル紹介と人間ドラマがテーマの『おひとりさまホテル』。一八話にて、名古屋テレビ塔の一部がアートホテルとしてリノベーションされていることが触れられていた。
「観光タワーの一部がホテル?なんそれ!!」
タワーの一部がホテルであることも、アートホテルというジャンルがあることすらも知らなかったため、すぐに週末の名古屋行が決定した。
当日。一五時過ぎに名古屋駅へ到着後、四分ほど電車に揺られてテレビ塔のある久屋大通駅へ向かった。地下鉄までの道中、さすが日本三大都市なだけあってエスカレーターの数が多い。乗っていて気づいたのだが、どうやら名古屋のエスカレーターマナーは左乗りのようだ。大阪は右乗りだったものだからちょっとした違和感があり、旅行に来たぞ感と非日常感を同時に感じれて、もうすでに楽しい。観光名所はもちろんのこと、その土地に暮らす人々の習慣であったり方言であったりを肌で味わえるのが旅行の醍醐味なのかもしれない。少し大げさかもしれないがそう思う。
久屋大通駅に到着後、地下鉄出口を出てすぐのところで信号待ちをしていると、テレビ塔の足元に人だかりができているのが見えた。近づいてみると、テントとブースが設営されており、2,30人の大人たちが透明のカップ片手にワイワイしていた。調べてみると、今日は『ナゴビア』というクラフトビール限定のワイマーケットブルーイングの日だったらしい。北海道や京都、名古屋のなど八社のクラフトビール会社が参加していたそうだ。気になったので、ホームページをめくっていくと「一杯400円から楽しめます ※ただし2チケットからの販売になります」の文字。僕はビール一杯が限界の下戸なので今回は見送った。自分にコミュ力があったら近くの人とシェアなんかして楽しめたのかもしない、と後から少し後悔。まあいいさ、色々イベントやってるみたいだし、次来た時の楽しみに取っておこう。
今回訪れた名古屋テレビ塔は、南北一キロにわたる久屋大通公園の南側に位置している。公園の縦ラインに芝生が敷かれ、両脇には二十四棟ものレストランやショップが立ち並ぶ。朝も昼も飲まず食わずで名古屋に着いたので、だいぶお腹が空いてきた。良い感じの店はないかと公園を一周してみる。下調べをせずに名古屋に来たのだが、どうやらテレビ塔のある久屋大通公園は高級指向路線のようだ。ショップにはCOACH、COLE HAAN、MICHAEL KORSが並び、路駐の車はだいたいベンツとBMW。カフェやバーに関してもそこそこの良いお値段。大学生には手が出しにくい価格帯だ。まあいいさ、社会人になって彼女でも連れてまた来たらいいじゃないか。次来た時の楽しみに取っておこう。
お腹がグーグーと鳴りやまないので次の目的地、大須商店街へ向かう。大須商店街は名古屋の一大繁華街で、古着屋やコンセプトカフェ、ガチャガチャとかが有名だと人から聞いた。ともかく、タワーからそのまま久屋大通から栄を抜けて大須商店街を目指す。
古着屋エリアに差し掛かったとき、前を歩く細身のお兄さんが急に振り向いた。そのタイミングでお兄さんとバッチリ目が合い、軽く2,3回ガンつけられてしまった。細見の裾広がりダメージジーンズに短丈のレザージャケット、そして真っ金々のツンツンヘアー。人を見た目で判断するのは良くないのだが、前々からマッドマックス系ファッションの人に苦手意識がある。
こうしたネガティブな感情を抱くたびに、ふいに思い出す言葉がある。「なにも多様性を受け入れる必要はない。否定も攻撃もしないこと、それだけで十分なんだよ」誰が言ったかは覚えていない。たしかにそうだ、マッドマックスファッションそのものは悪くない。ていうかマッドマックス好きだし。あのファッションをする人全員が、ガン飛ばす柄の悪さではないはずだ。根に持つのは、それは話が違ってくる。
大須商店街は全面アーケードになっていて、雨の日に持ってこいだった。二時間以上ぶらぶら散歩していたのかもしれない。
商店街の隙間に、雰囲気の良い路地を見つけたので写真を撮った。今作っている冊子の表紙にピッタリだ。田舎者の僕からすると、路地裏に都会ぽっさをより濃く感じる。田舎の家と家の間隔なんて10メートル以上離れているので、路地裏という概念が存在しない。だから僕は路地裏散歩が好きなのかもしれない。
その後、大須商店街入口にある味噌カツで有名な『矢場とん』で早めの夕食を取った。串カツとジンジャエールを注文し、追加で矢場とん特製コロッケを頼んだ。濃い目の味噌ダレも美味しかったが、備え付けの醤油ソースも捨てがたい。
アパートに帰ってから、今日のことを忘れないように、日記にメモする。
四月二十一日、天気は雨
見出し:名古屋観光
一言コメント:
「自分と違うファッションセンスの人を、否定も攻撃もしない生き方がいいね」と君が言ったから、四月二十一日はガン飛ばされ記念日。