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仕事内容

私の仕事は、融資審査だ。
銀行が中小企業に融資するときに、万が一を保証する組織だ。

銀行から見て、返済懸念がない企業へはプロパー融資をするが、そうじゃない企業へは保証をつけたい。そういうときに弊社へ保証の依頼がくる。

保証依頼はなんでもオッケーできない。
企業が返済できなければそれがそのまま弊社の実損になるわけだから、審査を経て「この企業にこの金額は難しい」となれば保証できない、「否決」となる。そうなれば銀行はだいたいプロパー融資もできず、企業は資金調達手段をひとつ失う。

審査はほとんど書面だ。
本来は企業へ訪問し、社長と面談して事務所や工場を見て判断したいところだが、小さい組織なので全件訪問はできていない。
書面審査は難しい。
手元資料は、企業概要・決算書・保証申請書くらいしかない。
その書類からいかに情報を吸い上げ、イメージを膨らませ、今回の保証申請金額の妥当性を見極められるかというのがこの仕事の肝なのだ。
新入社員のときはこれが全くできなかった。
「経営」というものが身近ではなかったし、「事業」をひとつも知らなかったからだ。
「事業」はとてつもない数が存在する。
建設業、飲食業、製造業、サービス業。
それぞれ仕入先・販売先があって、会社内の職種も違う。
さらに、建設業だと10種以上の小分類に分かれて、それぞれ会社規模や取引先や仕入も違う。

そういう「事業」を知って初めて、本当に書面で審査ができる、ということなのだ。

「事業」を知るには、実際に見て学ぶしかない。

保証申請があった会社へ訪問して、経営者に話を聞く。扱う商品、事業資産、仕入先・販売先、お金の流れなど。
実際の商品だけでなく、受発注の明細書やメールも見せてもらい、仕事の様子を把握する。

これを何社も繰り返しながら色んな「事業」を知り、自分の仕事を確かなものにしていく。



弊社は審査ばっかりしている。
小さい会社なので審査しかすることがなく、ほとんどの社員が審査部門にいる。
要するに、この会社にいる限り、審査以外の仕事に触れる機会はないのである。
良く言えばニッチな専門職だ。
融資審査は将来AIに取って代わると言われているが、審査を長くやっているとそうではないと思う。
「審査職人」によって確かな審査がされると思っている。
それを、定年まで時間をかけながら培うのもひとつのキャリアの姿だと思う。

悪く言えば、自分の仕事適性を活かし切れないまま定年を迎える可能性があるということだ。
多様な仕事を経験すれば向き不向きがわかってくるし、それに基づいて転職や異動志願をすれば得意なことを突き詰めていける。

今の仕事が好きかと聞かれれば、好きだと答える。
自分の能力が最大限活かせる仕事、と胸を張ることはできないが、向いてなくはないし、まあまあ長く続けられるかな、という程度だ。
ただ、この仕事じゃなくても同じ温度感で取り組める仕事は他にもたくさんあるだろうなと思う。

私は金融業界に興味は全くなかったし、数字に強いわけでもない。
就活時は印刷業や食品製造業、包装資材製造業など、何か作り出す仕事ばかり気になっていた。
全国転勤ウェルカム!と就活ハイになっていた私も最終的には、「結婚してこどもが生まれても長く続けられる仕事がしたい」という本心に気が付き、業界的には興味のなかった金融業界へ。

考えれば考えるほど、定年までの30年間をここで過ごしていいのかなと迷ってしまう。


しかしながら、今の仕事が少しは好きなんだなと意識する出来事が、この育休期間中に2つあった。

ひとつは整骨院の話。
産後の骨盤矯正のため週2回通っている整骨院。
先生たちは気さくで、毎回おしゃべりが止まらない。
時事的な話題が多いが、私が一番好きなのは先生の仕事について聞くときだ。
この仕事の面白いところ、この仕事ならではの話、1日の流れ、整体師を志したきっかけや今後の展望。

私の担当の先生はまだ26歳なのに整体師7年目だ。
高校卒業後、鍼灸専門学校へ3年間通って社会人デビュー。マンガきっかけで整体師を志したそうで、迷いなく専門学校に進んだ。整体師にも色んな施術が存在するが、その先生はマンガで憧れた鍼治療を専門的に学び、今も鍼治療が一番好きだという。
私がたくさん質問を挟んでなかなか話が前進しなくても先生は答えてくれる。当たり前か。

マッサージはタオル越しなので手の油分がもっていかれるので、ハンドクリームがかかせない。
茶髪でパーマをかけると年配の男性に嫌われるため、本当は茶髪にしたいけど黒髪を維持している。
施術中に話しかけてほしい人とそうじゃない人の違いはすぐわかる。

この仕事ならではの話って、なんでこんなに面白いんだろう。
さらに先生が担当する他の患者さんにもそれぞれ多様な仕事があって、面白い話は私にも紹介してくれる。

改めて思うと、仕事の面談とそんなに違わない。
こうやってその仕事を理解するのが楽しいのだ。


もうひとつ、カンブリア宮殿だ。
テレビ放送しているのは知っていたけど見たことはなかった。
ありがたいことにうちの赤ちゃんがよく寝てくれるので、昼間のひとり時間にテレビを見ているが、番組表を眺めていたらカンブリア宮殿を見てみたいと思った。

色んな人が出てくる。
大手企業の社長は、会社の危機から脱却して、時代の最前線を切り開いている。
すごーくニッチな会社も出てくる。ベーカリーのコンセプトを作り出すプロ、世界中から変わった植物を集めてくるハンター。

いろんな仕事があるなあ、とつくづく思う。
どの方も、その業界の何かに魅了されて突き詰めている。その魅力が何なのか、それをどう仕事にしているのかをテレビ越しに見せてもらうのがとても楽しい。
私は「仕事を知る」のが好きなんだな、と感じさせられた出来事だった。


別に無理に好きな仕事に就く必要はないと思う。
でも、その仕事を続けるうちに、いつの間にか小さな魅力に出会い、小さな探究心を持ちながら仕事をしている。
きっとそれに気づいていない人が多いと思う。
私も最近ふと気づいた。
それに気づいたとき、その気持ちをすごく大事にしたいなと思った。
なんだか、簡単には出会えないものだと感じた。

その仕事のどこを気に入ってるのかが見つかると、仕事はもっと楽しくなるだろうな、
と仕事を休んでいる身がのんきに思う。


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