落ちた山鳥
遠くの方に何かが見えた。道路の真ん中に土の塊の様なものが見えた。耕運機が落とした土にも見えた。近づいていくと動いている。私はようく見ようとしゃがみ込んだ。押してきたベビーカーの中からそれを見せろ!とむずむずと赤ちゃんが言葉にならない声を上げている。小さな小さな鳥の子をどうしたらいいものかわからず私は掌に乗せて苦しくなった。見渡すけれど誰も通りかからない。2本先の道路を淡いオレンジ色の軽乗用車がゆっくり右から左へ過ぎていく。日差しは5月にしては強かった。胡麻塩ほどのつぶらな瞳は血の色に染まっていた。片田舎のベッドタウンは日中は人が歩かない。窓から外を見ているのは退屈そうな老人くらいなものだった。老人ばかりの町を回春と書かれた妙な名前の白いバンが走り去る。
普段から危うい命を抱えて歩く私にもう一つは抱えれそうに無い。無いのに手を差し出すと小鳥は自分の力で私の手の中に這い上がって来た。私の子もこの鳥もどちらも息をする小さな命だった。
ジリジリ照りつける太陽の下で汗をかきながら人を待つ。向かいの家からやっとおじさんが出てきた。こんにちはと話しかける。道で拾ってしまったと伝えると彼も困った風で‥賃貸の菜園の向こうに見えるデザイン会社へ案内してくれた。
そこのおじさんも困った顔をしつつ、前にも山鳥が届いたと言う。
俺、こういうの縁あるのかな、前のも飼っていたけれど人の匂いがつくともう山へは帰れないんだよな。
仕方ない、もらうよ。
すいませんお願いします。と私と私の赤ちゃんは散歩へ戻る。ほんの800メートルほどのコンビニエンスストアへおやつを買いに出掛けて命を拾ったあの日の話。