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「医療的ケアを必要とする子どもへの保育実践の機能-認可保育園でのフィールドワークによる探索的研究-」二宮祐子(2021)『子ども家庭福祉学』21巻

医療的ケア児を受け入れ、実践をしている認可保育園での実践について、研究者が短期間ではあるが参与観察をし、さらに保育者にインタビューをすることでその実践内容をまとめている。インタビュー内容は、保育士の思いが率直に、丁寧に取り上げられており、研究論文でありながらも、あたたかい気持ちにさせられた。

<引用>
・(医療的ケア児が増加する現状を踏まえ)今後は、これまで希望するサー 
 ビスが受けられなかったり、サービスの申請そのものをあきらめたりして
 きた潜在的ニーズが顕在化することが予想される。目下のところ、受入体
 制の整備に関心がむけられがちではあるものの、やがては、保育の内容そ
 のものが問われるようになるであろう。
・医療的ケア児の育ちに寄与する保育所保育の専門的機能として、6つのカ
 テゴリが明らかにされた。
⇒様々な感情の経験・仲間関係の形成・試行錯誤の促進・自己主張と自己抑
 制の促進・様々な職員との相互作用・様々な子どもとの相互作用
・<インタビュー調査回答より>(医療的ケア児にせよ,周りの子どもにせ
 よ)子どもって、相手のことがよく分からないときは、どんどん押してい
 く傾向があって、相手が迷惑がっていることもあまり分からずにグイグイ
 押してしまう。その時、「イヤ」って言うことが自分の思いを表に出すチ
 ャンスになる。(エピソード略)お世話してくれる大人との関係だと心地
 よいことをしてもらえるだろうけど、相手が子どもの時はそういうことば
 かりじゃなくて。そういうときに素直に「イヤ」って言えることは、子ど
 も同士の関係のなかで(学ぶものとして)大きいですね。
・(調査結果を踏まえた考察において)「個別的な配慮」のあり方について
 考察した結果、〈絶対的な配慮事項〉と〈裁量的な配慮事項〉の両方に目
 配りしながら対応しなければならないという難しさがあることが示され
 た。
*絶対的な配慮事項:医師から指示書など生命の保持に必要なこと
 裁量的な配慮事項:保育者の個人的判断で行われること

 <つぶやき>
子どもにとって居心地の良い環境とは?と考えたとき、「自分のことが最優先されて、否定されないところ。」とは限らないということをこの論文を通して思わされた(生命の維持は最優先ということは言うまでもなく)。
子どもの感覚はとても鋭くて、遠慮がない。それをうまく生かし、相互作用に導いていけるなんて、保育士はすごいな~とただただ感動した。決して高待遇ではない保育士に対し、医療的ケア児が増加していく状況を踏まえると、あらたな専門性が求められていくのは容易に想像できる。そこをどのように支えていくのか、議論が必要となっていると考える。


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