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LAST WEEK REMIND~無敵の哀れなるものたち~

LAST WEEK REMIND
~無敵の哀れなるものたち~

1/21-27の振り返り

☆は4点満点

【映画】
戦略大作戦(1970)
☆☆:第二次大戦、軍上層部の都合のいい駒のように戦っていた小隊が、3日間の休暇を使って、ナチスドイツが占領する町にある銀行から大量の延金を盗み出す。戦争映画ながらコメディ要素が強いのが特徴の今作。小粋なセリフが飛び出し、個性的なキャラクター達も尽きない。丁度いい笑い。だがバトルの場面になればちゃんと緊張感もあるし、大掛かりな戦争シーンもある。特に戦車を駆使することでタイトルに恥じないアクションを見せている。劇中歌"Burning Bridges"に代表されるように、公開当時の1970年的ポピュラー音楽が冒頭から流れるために、70年代当時の空気感が濃い。上層部の言いなりになっている小隊のちょっとした反抗心が当時、進行形だった戦争に対するメッセージにもとれる。程よく丁度いいメッセージと風刺。孤高のイーストウッドが睨みを効かせれば、熱血曹長サヴァラスが吠えて、ヒッピー風サザーランドがのらりくらりと仕事をこなし、リックルズが持ち前のコメディ力を爆発させる。この中心4人が率いるキャストたちが丁度いいバランスを作る。彼らがテレビでもいけるスターであること、その他キャストもテレビ的な顔が揃っていることで、若干スケール的な物足りなさは否めないが。丁度いいコメディ、丁度いいバトルシーン、丁度いいキャストと、丁度よくないのは144分という尺だけだった。

ウーマン・キング 無敵の女戦士たち(2022)
☆☆☆☆:かつて西アフリカのダホメ王国にはアゴジェと呼ばれる女性軍隊がいた。彼女たちは同胞をさらっては奴隷として白人に売りさばく隣国オヨ帝国から民を守っている。「女性軍隊」「奴隷」など、それこそいくらでもシリアスに出来る題材ながら、この映画にはすべてが詰まっている。軍隊としての連帯の物語、兵士になるための成長物語、血のつながりの有無関係なく広がっていく家族の物語、「ウーマン・キング」という名が示す誇りとそこにたどり着くための果てしない道の物語。それがハードなアクションはもちろんのこと、キャラクター達の人情がにじみ出るユーモアや、彼女たちのアゴジェへの情熱が丁寧に織り込まれながら語られていく。ジーナ・プリンス=バイズウッド監督の複雑ながらシンプルで力強い手腕が光る。主演デイヴィスが全ての注目をさらうかと思いきや(もちろん彼女はあらゆる面で素晴らしい)、L・リンチが絶妙なユーモアを振りまき、S・アティムが温かみをもたらし、物語の第2の主演トゥソ・ムベドゥが新たなるスター誕生を予感させるダイナミックな演技で惹きつける。王道なストーリーでいて、その枝葉には豊かな実りがある。ドラマあり、アクションあり、純粋なエンターテインメント映画のお手本のような作品だ。

ホワイトハンター ブラックハート(1990)
☆☆☆:ちょっと気恥ずかしい。あの厳ついイーストウッドが気品ある服を纏い、英国の豪邸で暮らしているからだ。今作は「アフリカの女王」を撮ったジョン・ヒューストン監督の逸話をベースにしていて、イーストウッドがヒューストンにあたる人物、その名もジョン・ウィルソン監督を演じている。この男はなかなかの大物で、危険なアフリカの地でロケ撮影しようと言い出したり、いつまでたっても撮影を始めようとせずにアフリカの野生の象を狩ろうとしたりと自分勝手なのだ。特に野生の象を狩るということに対する執着心が半端ではない。地元のガイドをつけて、アフリカの大地を移動する。そんな男の背中をカメラが追っていくにつれて、差別に対しては断固とした態度をとる一方で、気高い動物である象を狩る罪を犯したいという、善悪では判断できない複雑な内面が浮かび上がってくる。イーストウッドは似合わなかったお召し物を脱いで、ハンターの服に着替え自然と対峙するウィルソン監督を静かに熱演する。派手な展開を控えて淡々と象をハントしようとする男の背中と心を追うイーストウッドの監督としての力強さ。劇中の人々の命を決められる映画監督のエゴが破壊されて、ただの人間であると思い知らされる寂しげな後ろ姿に、「許されざる者」前夜の気迫がみえた。

哀れなるものたち(2023)
☆☆☆☆:胎児の脳を移植された女性ベラが一から人生を経験し始めることで解体されていく奇妙で不可思議なこの世界。理不尽で、過激で、残酷。そんな世界を身一つで切り開き、意味をもたらそうとするベラの生き様に震える。自由で狂った世界感を保ちながら、そこで生きる生命を祝福するかのような幕の下ろし方に脳に電流を受けたかのような衝撃を受ける。全シーン記憶に残るインパクト。言葉では語りつくせぬ異・体験映画。どうか心をオープンに。これが新時代の幕開けです。ベラ~~!最高!ダンカン、バカやろう!

最悪な子供たち(2022)
☆☆☆:貧困層が住む地区で貧困層の子供たちを描く映画を作る。演じるのは実際にその地区に住む、それぞれ事情を抱えた子供たち。という二重のストーリーで進む今作。ややこしいが、ドキュメンタリーではない。ドキュメンタリータッチなだけだ。オーディションで選ばれた4人の子供たちを物語の中心に置き、撮影中の作品の内外で起こる彼らの悲喜こもごもを描いている。今作の中で作られている映画自体は典型的で面白みはないが、その演じる役柄と実体験がリンクする部分を持つ子供たちが、演じることで生じる心の揺れを繊細に捉えている。演じることで傷つくこともあれば、救われることもある。それをリアルな息吹で体現する若きキャスト達が素晴らしい。押さえてきた感情が頬を伝う様に、空高く舞う一羽のハトが重なる。

ニモーナ(2023)
☆☆☆☆:可愛い。ピンク色を基調として、何にでも変身できる女の子。ニモーナのことだ。でもその能力が周囲から恐れられ、疎外される原因になっている。一方でバリスターは庶民初の騎士になり損ねた上に、とある事件の犯人と疑われ、逃亡の身となっている。この二人が出会うことで、凸凹なバディムービーが出来上がるのは必然だろう。面白いのはポップなニモーナがやたら好戦的で、バリスターは騎士だけどやたら慎重なのだ。噛み合わない二人が友情を深めながら、陰謀を解き明かそうとする物語がダイナミックなアクションと共に語られる。そこには疎外される苦しみと、伝統を重んじるあまりに排他的になってしまう社会の愚かさも描かれる。モレッツとアーメッドのヴォイスパフォーマンスもピタリとはまりまくる。紋切り型の絵本的物語をぶち壊そうとする姿勢にぶち上げ〜!

ぶち上げ〜!

【TV】

スコット・ピルグリム:テイクス・オフ 第1シーズン第3話
となりのサインフェルド 第4シーズン第20話

【おまけ】
・今週のベスト・ラヴィット!
ヨギソダーイブ!

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