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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 26「フェラーリ」

AWARDS PROFILE Vol. 26

フェラーリ

RT: 72%
MC: 72
IMDb: 6.5

 1957年の夏、元レーサーで実業家のエンツォ・フェラーリは危機に瀕していた。大切に育て上げたフェラーリ社が倒産の窮地にあり、家庭も息子の死と、婚外子の存在でめちゃくちゃになりつつあった。そんな彼はイタリア全土を走る危険なレース、ミッレミリアに全ての命運をかけていた…。

 スタイリッシュでハードボイルドな作品で知られる巨匠マイケル・マンの8年ぶりとなる監督作は、自動車界のマエストロことエンツォ・フェラーリの伝記映画だ。今作はフェラーリの決定的な分岐点となった1957年を舞台にしている。フェラーリを演じるのは近年、大作、インディーズ問わず絶好調のアダム・ドライヴァー。妻ラウラ・フェラーリにペネロペ・クルス、愛人のリナ・ラルディにはシェイリーン・ウッドリー、他にもサラ・ガドンやパトリック・デンプシー、ジャック・オコンネルが出演している。ブロック・イェーツ著の原作「Enzo Ferrari: The Man, the Cars, the Races, the Machine」を基にトロイ・ケネディ・マーティンが脚本を担当する。マン監督の20年にも及ぶパッションプロジェクトは、ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映されて、シャープな評価を受けている。全編を貫く優雅な画作りの中に恐ろしさを忍び込ませることで、スピードと煙の中から熱狂的な夢そして、悪夢を立ち上がらせる。華麗なレースシーンには常に死の亡霊がつきまとう。それはレースシーンを恐怖で震えるようなホラーへと変貌させているそうだ。それと同時に危険と隣り合わせのスピードが生み出す儚い美しさを捉えていく。アクションと同じようにドラマの場面にも張り詰められる危険な空気がたまらない。どこに転がるか分からない感情の揺らぎが、これまた複雑なスリルをみせるとのこと。作品は尊敬されながらも控えめであったプライベートな人物フェラーリに迫りながらも、探れば探るほどにその神秘性が際立っていく。フェラーリが象徴する美と力を高く掲げながらも、美は枯れて、力は周囲を破壊するという矛盾にも向き合う。冷静さを貫くドライヴァーがやはり素晴らしいが、作品により予測不能の重みを与えるのはクルスだ。彼女がラウラ・フェラーリの胆力と悪意と情熱を放出させる。相まみえたら最後、木っ端みじんにされることは間違いのないパワフルなパフォーマンスだという。130分間を通じて表されるマンの落ち着き払った冷静さが、共感を寄せ付けないものとする指摘も入っているが、ざらついた男くさい彼の作品を愛する者をしっかりと虜にする作品であろう。そうではない者にとっては法令順守のスピードの伝記映画に留まっているようだ。7月5日公開予定。

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