見出し画像

第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 9「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」

AWARDS PROFILE Vol. 9

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース

RT: 96%
MC: 86
IMDb: 8.7

 親愛なる隣人スパイダーマンとして今日も活躍する高校生マイルズ・モラレスだが、同じくスパイダーグウェンとして活動するグウェン・ステイシーとの再会をきっかけに、あらゆるスパイダーマンたちが集まる世界へと導かれる。その一方で、新たなる脅威が不気味に力をつけ始めていた...。

 2018年、コミックとストリートアートの質感を反映させた革命的な映像でアニメーション界に新たな旋風を巻き起こした「スパイダーマン:スパイダーバース」の続編となる今作。監督は前作のチームからホアキン・ドス・サントスとケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソンのチームへとバトンタッチをし、製作や脚本には引き続きフィル・ロードとクリストファー・ミラーが関わっている。キャストは相変わらずのスター揃いで、シャメイク・ムーアやヘイリー・スタインフェルド、ジェイク・ジョンソンをはじめとする前作のメンバーに加えて、オスカー・アイザック、ジェイソン・シュワルツマン、イッサ・レイ、ダニエル・カルーヤ、カラン・ソニなど、あとは各々で調べてほしいほどの豪華な布陣。遊び心溢れる自由な作風だけに細やかな配役が光る。公開されるや高評価連発、一作目を超える大ヒットを記録した。冒頭からエンディングまでエンジン全開で駆け抜けるため、140分に届く長尺に飽きることがない。一見では頭の処理が追いつかないほどの情報量がスマートで切れ味のあるイメージに落とし込まれる。グウェンの水彩画のような世界、マイルズのストリートアートのような世界、インドの精神が反映された世界、そしてスパイダーマンたちの結社がある世界。それぞれの世界でアイデアと遊び心、ユーモア、小ネタが大胆に交わることで唯一無二の独創的なスパイダーワールドを作り出している。多様なスパイディーたちの造形にもニヤニヤが止まらない。別次元のスパイダーバース間を行き来しながら、重力を再定義するアクションをたっぷりと繰り出す派手な見せ場の連続ではあるものの、キャラクターたちの繊細な苦悩も見落とすことがない。グウェンと警察官の父との悩ましい関係性、子供から大人へ成長し、親離れし始めるマイルズと両親のすれ違う思いを中心に、厚みのあるドラマの風呂敷を広げる。そしてスパイダーマンがスパイダーマンであるがための必然の犠牲にも触れられる。その運命に抗おうとするマイルズのヒーローとしての覚醒と成長が重なり合う。胸は自然と熱くなる。その世界、そのキャラクターの心情によってスタイルを変える胸踊るスコアは軽快なリズムを刻み、何度も言いたい素晴らしいデザインの数々など、一級の技術力に支えられた作品からほとばしるエネルギーに圧倒される。大いなる大風呂敷には、大いなるすれ違いが伴うということで、作品は希望と絶望の入り混じる結末を迎える。今作はパート3のための単なる中継ぎに収まらない、クレイジーで革命的なアイデアに満ちた映画の歴史に残るパート2だろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?