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俳優、監督、脚本、製作、何でもやるがモットーのグレートアクター〜ブラッドリー・クーパー〜

ACTORS PROFILE Vol. 25

ブラッドリー・クーパー
「マエストロ:その音楽と愛と」


1975年アメリカ生まれ。俳優、監督、脚本、製作、何でもやるがモットーのグレートアクター。

 レナード・バーンスタインは20世紀を代表する音楽家だ。長年の妻フェリシアと仲睦まじい夫婦ではあったが、彼は密かに若い男と逢瀬を重ねていた。

キャリー・マリガン演じる妻フェリシアと

 ▲クーパーは相当、音楽に思い入れがあるらしい。監督デビュー作となった「アリー/スター誕生」でもカントリー/ロックシンガーを演じていたが、今作では偉大なる音楽家レナード・バーンスタインに挑む。バーンスタイン独特の話し方や身振りをマスターした上で、メイクアップで容姿を限りなく題材へと近づける。この際、クーパーの生身をかき消さない節度のあるメイクアップが素晴らしい。そしてバーンスタインのアイコニックな指揮にも果敢に挑戦。20世紀の音楽家だけあり、多数のアーカイブ映像が残っているので、再現のための資料を得るに難くないが、その華麗なる指揮をどのようにその身に落とし込むのかは大変な作業だったに違いない。

今作では指揮の場面を物語の局面であるマーラーの交響曲にギュッと凝縮して爆発させる。準備に6年かけたという6分半のシーンに震えがくる。

 ▲「アリー/スター誕生」でも主役カップルのロマンスが軸にされていたように、今作もキャリー・マリガン演じる長年の妻フェリシア・モンテアレグレとの愛を中心に描いている。レナードとフェリシアの一言では言い切れない関係性は、時にうっとりと愛おしく、時に激しく怒りをぶつけあい、時に背中合わせで寄り添うような多面性を持っている。寄り添うだけで十分に魅せてしまうマリガンとのケミストリーが最高だ。映画が描く時間は50年にも渡るが、じっくりと腰を据えて描く夫婦の一瞬一瞬がその時を永遠にする。もちろんバーンスタインの偉大さばかりではなく、その自由奔放さが周囲を、特に妻フェリシアを傷つけることも見逃さない。

また偉大な存在であることやゲイであることで完全には理解されないという苦悩もある。常に快活なレナードの心の沈みを言葉無くとも体現した娘との対話場面が胸に残る。

 ▲監督も脚本も担当して、しっかりと主演としての存在感を見せつけた今作は、マルチに才能を発揮するクーパーのショーケース的な作品となっている。


ブラッドリー・クーパーとアカデミー賞

・第85回アカデミー賞(2012)主演男優賞候補:世界にひとつのプレイブック

 「ハングオーバー」シリーズでブレイクしたからか、コメディ作品への出演が多かったクーパーだが、「世界にひとつのプレイブック」では妻の浮気に遭遇して以来、うつ病にかかっている主人公を演じた。ドラマでもあり、コメディでもある今作で、二つのジャンルを絶妙に行き来して観る者を笑わせ、また感動させた。ジェニファー・ローレンスとの息もピッタリ。だが、この年は相手が悪かった。「リンカーン」のダニエル・デイ=ルイスがエイブラハム・リンカーン大統領を演じ、この年の主演男優賞を総なめにしていたのだ。実物以上に実物みたいなリンカーン像をスクリーンに焼き付けたデイ=ルイスの凄みに首を縦に振るしかない。

・第86回アカデミー賞(2013)助演男優賞候補:アメリカン・ハッスル

 「世界にひとつのプレイブック」に引き続きデヴィッド・O・ラッセル監督作「アメリカン・ハッスル」に出演して、2年連続の候補入り。今回は手柄を上げることに躍起になるFBI捜査官リッチーを演じた。詐欺師たちと協力して政治家たちを嵌める様子を笑いを滲ませて演じた。オスカーを受賞したのは「ダラス・バイヤーズクラブ」のジャレッド・レト。トランスジェンダーのレイヨンを演じるために大減量を敢行した。自己破滅的だが、他者に対する優しさに溢れたレイヨンを魅力たっぷりに演じた。素晴らしい。

・第87回アカデミー賞(2014)主演男優賞候補:アメリカン・スナイパー

 まさかまさかの3年連続候補を達成したクーパーは「アメリカン・スナイパー」で、イラク戦争に従軍し、狙撃手として名を上げたクリス・カイルを演じた。増量し、体を鍛え上げた役作りもさることながら、イラクから帰還後にPTSDで苦しむ彼の苦悩をじっくりと炙り出した。作品は大ヒットし、クーパーも受賞の可能性があったが、オスカーを獲得したのは「博士と彼女のセオリー」のエディ・レッドメインだった。理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士と妻ジェーンの愛を描く本作でレッドメインは、ロマンスたっぷりの前半と病により徐々に体が動かなくなっていく後半とを見事に演じ分けた。映画が終わるころにはレッドメインだと忘れさせるなりきりぶりに感服する。

・第91回アカデミー賞(2018)主演男優賞候補:アリー/スター誕生

 初監督作でオスカー候補になったクーパー。喜びもひとしおのことだろう。彼はハリウッドが誇る古典を現代に蘇らせた「アリー/スター誕生」で、レディー・ガガ演じる新星歌手を見出し、彼女と恋をする人気シンガーを演じた。彼女が人気になるほどに、彼は人気の階段を下っていく。才能はありながらアルコールに溺れていく姿は痛ましい。受賞を果たしたのは「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレック。こちらもシンガー、フレディ・マーキュリーの演技だったが、さすがは実在の人物を演じた方が強かったか。受賞は逃したクーパーだが、レディー・ガガとの歌曲パフォーマンスは何年も語り継がれることだろう。


おまけ

・語り草となっているアカデミー賞授賞式でのレディー・ガガとの「Shallow」パフォーマンス

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