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早期退職 第7話 退職後の生活-②(通勤電車からの解放)

 会社をやめてから、良かったと思うことのひとつが通勤ラッシュからの解放である。思えば、新入社員の時に初めて通勤電車を経験した。そこはこの世の地獄と思うほど殺気立った世界であった。既に満員電車なのに、これでもか、これでもかというほど人が電車に乗り込んでくる。当然、乗客同士の喧嘩も少なくなかった。およそ一日のエネルギーの3分の1以上、この通勤電車で費やしていたと思う。始めはドア付近とかに立っていたが、慣れて要領がつかめてくると意外に真ん中で乗客に挟まれながら浮いているのが楽と言うことに気がついた。その後、私は満員電車を避けるため、朝早い電車に乗ることにした。
 朝5時台なので流石に座ることができた。毎日、同じ電車、座る席も同じだった。周りもほぼ同じ顔ぶれだった。四人掛けのBOX席でなぜか私の前にいつも、若い女性が座っていた。ごく普通の女性だった。声を掛けてみようかと思ったこともあったが、何もないうちに、私が仕事の都合で電車を変えてしまった。そのうちに、この通勤電車に使う時間と労力が無駄に思うようになり、多少家賃は高くなるが通勤の楽な駅周辺に引っ越した。
それでも電車はそれなりに混みあっている。そして、年々乗車客が増えているような気がした。乗る時間を朝早めにしているにもかかわらず、やはりそれなりに混んでいる。
朝は早めに出ることである程度対応できるのだが、帰りはそうはいかない。やはり混んでいる。どうしようもないことなのかと思った。
 結婚して駅が変わっても自分は、毎朝同じ時間、同じ電車の車両、同じ乗車口から乗っていた。乗客の顔もお馴染みである。乗り換えの駅でも電車を待つメンバーは、ほぼ毎回同じ顔であった。この路線は運がよければ座れることもあり、みんなそれぞれホームの一番前に並んでいる。1番目の乗車口は、大きなヘッドフォンをつけた無愛想な男、2番目は体格のいいおじさん、3番目が私、4番目はIT系と思われるロン毛の黒ずくめの男だった。
ある時から電車が到着するギリギリの時間に少ない髪をなびかせながら猛スピードで走ってくるおじさんが現れた。おそらく別の路線からギリギリで乗り継いで来ている人だろう。ある日、そのおじさんが私の前に割り込んできた。私が睨みつけるとそそくさと、違う車両へと移って行った。別の日に今度はロン毛の男にもまた割り込みを掛けて、やはり睨まれていた。その後、おじさんは、離れた車両に乗るようになった。世の中、変な人がいるものだと思った。
 やがて時が経つうちに、ひとり、ふたりと常連のメンバーがいなくなった。転勤とか異動があったのだろうか?あの割り込みおじさんも、いつの間にか見かけなくなった。この次は、自分かなと思った。
電車の車内はというと、朝早い電車なのだろうか、毎日同じ顔ぶれだった。寝ている人、スマホを見ている人、書類に目を通している人と様々だ。あと目が死んでいる人が多いのが気になった。自分もそうなのだろうか?
誰が好き好んでこんな早朝から電車に乗るものか?ほとんどの人は、生活の為、仕方なく働いているのだと思った。毎日、楽しく出勤している人など、ほとんどいないとも思った。


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