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海洋地形学おばあちゃんの追憶(プログレッシヴ・エッセイ 第6回)

英国のプログレッシヴ・ロック・バンド「イエス」が1973年に発表したアルバム『海洋地形学の物語』は問題作といわれている。

理由は明快。長いのだ。

2枚組で収録曲がたった4曲。
どれも1曲20分前後。
そして大仰なタイトル。
「神の啓示」「追憶」「古代文明」「儀式」――宗教書の目次か。


私は好んで聞いた記憶はない。おばあちゃんにねだって買ってもらったゆえに、責任感にかられ、どんなに眠くなろうとも聞いて吸収しようとした。


小6の時、国語で詩を創作する授業があった。CD付属の訳詞の一説を丸写しして提出したこともある。
先生からは、

「高木の作る詩はさっぱりわからない」

と苦言を呈された。
私も意味がわからなかった。
問題児扱いだった。

1992年当時、CDの値上げの時期だった。
『海洋地形学』は、青い帯の3,376円から黒い帯の3,900円に切り替わっていた時。
なんとしてでも欲しいが2枚組を買うおこづかいは持っていない。
先月、誕生日にねだったらイエス『危機』を買ってもらえた。
もうちょっとねだってみようと思ったらいけるかもしれない。
が、買うメリットを説明しなければならない。
そこで、

「今買わないと値上がりしちゃう」

と説得した。おばあちゃんは、

「大地は口がうまいねぇ」

とお金を渡してくれた。
吉祥寺の新星堂で無事安い方を購入できたのだった。


かくして問題児が問題作の購入に成功した。
今だったら高齢者への詐欺罪で捕まりそうな案件だ。
おばあちゃんは101歳でその生涯を終えた。
『海洋地形学』に負けない長さの人生だった。
味を占めた私は8月に骨折したことを理由にリック・ウェイクマン『ヘンリー八世の六人の妻』のアルバムを買うためのおこづかいをもらうことに成功する。
そんな“追憶”。

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