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【エッセイ】親愛なるYouTube

YouTubeのおすすめは大変に良い働きをしていて、今の自分の気持ちを代弁するような、代弁といっても全部そのまま汲み取っちゃいないけれど、8割くらいは私でも持ってそうな表現で、残りの2割は、その気持ちを私の持っていない言葉で美しく歌いあげた、そんな歌がたくさん流れてきた。

何曲か聞くうちに、歌詞の中でひときわ輝く、何気ない言葉で語られているのに光って已まないフレーズが流れてきた。

その言葉たちは、私の鼓膜を震わせ、あらゆるニューロンを駆け巡り、心臓と共鳴して、自分の体の中で、嬉しさと切なさが大きく振り子した。

そういう言葉だけ、うまいことパッチワークして、どうにか君に伝えられたらいいんだけれど、そうしたって伝わりきらないことだろう事はなんとなくわかるし、JASRACがそれを許さない事はよくよくわかっている。

結局のところ、今の私の体を激しく震わせた名曲たちは、悲しきかな、とてもキャッチーなことがかえって量産的で、一週間のキラーチューンになろうとも、一ヵ月間のヘビーローテーションになろうとも、きっと一生涯の歌とはならないだろう。

本当の名曲って言うものは、ひどく悲しいものなのだ。

なんだってそう。食べ物だってそう。お気に入りのスポットだってそう。大好きって事は、なんだかひどく悲しい心と伴ってやってくるんだ。
それはまさにあなたのことだよ。

私はもうこの年だし、恋がただキラキラしたものじゃないことを知っている。恋が楽しいとか、美しいとか、そんな一言で言い切ってしまうものはまやかしだ。いささか侵されている。商業主義かチープな流行歌に。ステレオタイプなドラマに。

ああいうフィクションは、キラキラばっかり取り上げすぎた。恋の喜びというのは水面に張った氷のようで、その下には生ぬるく底のない悲しさや愚かさや醜さが、遣る瀬無いまでしんしんと湛えられている。かつ氷はすぐ溶ける。

私の心を一時慰める、そんな処方箋みたいな歌はこれまでいくつかあったけど、私を変えてくれる歌なんてなくていいから、世界が変わる歌なんてもなくていいから、どうか私も世界もそのままに、この悲しさをそのまま喜べる、私を丸ごと救っていくような、そんな歌を勧めておくれよ。YouTube。

2020.10


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