『国境騎士団・バリアント 〜「お前は存在してはいけない生物だ」・・・俺と対峙した者は何故か不思議と口にする 〜』 第2話

20XY年 4月

アメリカ合衆国 ニューヨーク州 夜

人気の無い路地裏にパトカーが数台駆けつけていた。

「また身体中の臓器がぶち撒けられている遺体か・・・これで16件目だぞ」

「一体どういう神経したらこんな惨たらしい殺し方が出来るんですかね。しかも死因は頭を貫通している銃弾なんですよね?」

「まだ司法解剖もしていないのに死因を決めつけるな!・・・と言いたいところだが、恐らくそうだろうな。また奴の・・・『黒い処刑人』の仕業だろうな」

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翌日 バリアント・アジト in ニューヨーク

「ニャルラさん、例の事件・・・また犠牲者が出たらしいです」

「アレでしょ、臓器ぶち撒け殺し事件。随分とこの街も物騒になってきたモノだニャ〜」

ニャルラとヨグはニュースを見ながら話している。

「犯人の手がかりが全く無い状態で警察もお手上げ状態ですからね。分かっているのは犯人が黒いコートと銀の銃を所持していることだけ・・・」

「そうだニャ〜。今までの事件から察するに犯人は随分と狡猾で残忍な奴じゃないか・・・ていう私なりのプロファイリングがあるニャ〜」

「そうですね」

「そうだニャ〜」















「「・・・・・・」」

そして、2人は突然黙った。

示し合わせたのではなく・・・

しかし、この空気に耐えかねたのかヨグは一言発した。

「ニャルラさん・・・自分、実は犯人に心当たりがあるんですけど・・・」

「ほーう・・・名探偵ヨグ君、心当たりとは?」

ニャルラはヨグの言葉に興味を示す。

「最初この事件を聞いた時、まさかな・・・とは思ってたんですけど、信じてたんです。でも、最近は本当に犯人じゃないか?今言えばまだ間に合うんじゃないか?と思うようになってるんです」

「ほうほう」

「だから、僕・・・一言言ってやります、アザートさんに!!」

「何を言うんだ?」

そこにちょうどよくアザートが入って来た。

髪が濡れているようであり、シャワーを浴びた後のようだ。

「アッ・・・アザートさん!!いや・・・それは・・・その・・・」

「名探偵ヨグ君がぁ〜今起きている、連続殺人事件の犯人がアザート君ではないかと思ってるそうニャ〜。後、アザート君を狡猾で残忍とか・・・」

「狡猾で残忍はニャルラさんが言いましたよね!?」

ニャルラの濡れ衣発言を急いで指摘するヨグ。

「ほーう、つまりそこ以外は思っていたと・・・」

「あっ・・・いや・・・そんな訳では・・・」

「さっきまで強気でいた君は何処に行ったニャ・・・」

ニャルラは呆れたような声をヨグにかける。

その言葉に触発されたのかヨグが壊れた。

「あ〜〜〜はいはい分かりました!ぶっちゃけるとめっちゃ疑ってますよ!だって犯人、黒いコートに銀の銃を所持していたそうじゃないですか!」

「黒いコートに銀の銃を所持しているから俺が犯人?流石が見た目は子供、頭脳も子供の名探偵だ。随分とふわふわした証拠だな」

アザートは嘲笑いながら話す。

「じっ・・・じゃあ、アリバイあるんですか!事件は全て夜に起きてるんです。夜はアザートさんを見てませんよ」

「では、俺の無実を証明する為に夜はお前らが乳繰り合っている横で寝ろと言う訳か・・・」

「ちっ・・・乳繰り合ってなんかません!!」

「そうだニャ〜、愛し合ってるって言ってニャ〜」

「ニャルラさんは黙っててください!!!」

ヨグは顔を真っ赤にしながらニャルラを制止させる。

「まぁ、冗談はさておき・・・俺は犯人ではない。何故なら、俺とこの犯人は性格が真っ向から違う」

「「性格が違う?」」

アザートの言葉にニャルラとヨグが反応する。

「狡猾で残忍?・・・違う違う、全くの的外れだ。コイツは唯の臆病者だ」

「臆病者?」

「過去16件の概要を見たが、全て殺された時間帯は夜。場所は人気の無い路地裏・・・コレを臆病と呼ばずに何と言う?俺が犯人ならば白昼堂々殺す」

アザートは笑いながら話した。

「あっ・・・そう言われると」

「アザート君が言うと説得力が違うねぇ〜」

ヨグとニャルラはアザートの最後の一言で納得した。

俺なら白昼堂々殺す・・・

アザートという者はそういう存在なのだ。

「だが、懸念すべき所はある。それは奴の身なりだ」

「身なりって・・・ああ、コートと銃のことですか?」

犯人が身につけている黒色のコートと銀色の銃は確かにアザートが身につけているモノと同じだ。

「あぁ、先程はふわふわした証拠だと言ったが、俺と似ている事もまた事実・・・つまり────」

「何者かがアザート君を嵌めようとしているかもしれない・・・か」

「まぁ、唯の可能性の一つとしてあげられるだけだ」

「いや、その可能性も無きにしも非ずニャ。コレを見るニャ」

ニャルラはそう言うと徐にパソコンを開き、あるサイトを見せた。

「『戦慄!黒き異形者・賞金100万$』・・・って何ですかコレ!?コレは完全にアザートさんの事じゃないですか!?」

「以前に闇サイトを漁ってたら見つけたニャ。×××××国の一件からアザート君の事を知ったらしいニャ。この事件と関連があるとは言い切れないけど無いとも言い切れないニャ」

「なるほどな。だから、一時期狙われていたのか」

アザートのダイナマイトを彷彿とさせる発言にニャルラとヨグはフリーズする。

しばしの沈黙がアジトを覆う・・・

「・・・えっ?アザートさん、命狙われてたんすか?」

「あぁ、と言っても1ヶ月前にパタリと止んだが」

アザートがあっけらかんに答える。

「・・・因みに何人くらい狙われていたとか覚えてるかニャ?」

「あぁ、ちょうど26人だ。瞳が金になっている雑魚ばかりだと思っていたが・・・賞金狙いの奴だったとはな」

再び沈黙に覆われるアジト・・・















本日2回目の爆弾が投下された。

「・・・ニャルラさん、今回の犯人よりもヤバい殺人鬼が目の前にいるんですけど」

「まぁまぁ、アザート君が殺したのは金に目が眩んだクズニャ。別に殺したって何も問題無い。ここで注目する所はそこじゃない。アザート君が言った『1ヶ月前にパタリと止んだ』・・・ここニャ!」

ヨグに指を差しながらドヤるニャルラ。

「・・・なるほど」

「えっ!今のでわかったんですか!?アザートさん」

「分からんのか、迷探偵?ひと月前に何が起き始めたのか」

アザートが呆れながら話す。

「・・・あっ!今回の事件」

「そう!臓器ぶち撒け殺し事件はひと月前から始まったニャ。アザート君が狙われなくなったのがひと月前・・・コレは単なる偶然かニャ?」

「つまり、ニャルラ・・・お前は俺とこの事件は繋がっている・・・と」

アザートがニャルラに問う。

「ニャ。そして、ここらかは憶測・・・っていうか今も憶測だけど、この事件・・・アザート君に向けられたメッセージではないかニャ?」

「メッセージ・・・ですか?」

「『お前が首を差し出さない限り、無関係な市民を殺していく』・・・みたいな」

ニャルラの発言にヨグが凍りついた。

しかし、当の本人・アザートはというと・・・

「もし、それが本当だとすれば完全なる悪手だ。俺は赤の他人が何人死のうがどうでもいい」

「まぁ、そうなるよね〜私もそうだニャ〜」

「まぁ、そうですけど・・・」

ヨグが苦笑いを浮かべながら同意している。

その時・・・

「うわ〜〜〜!!黒ッ!!ドス黒ッ!!まさにブラックだ、バリアント!」

いつの間にか金髪の少女が会話に入り込んでいた。

アザートはすぐさま銀の装飾銃を少女に向ける。

「おい、貴様・・・誰だ?2秒で答えろ、でないと脳味噌が床にぶち撒けることにぞ」

「ちょっ!ストップストップ!!私は唯の依頼者だから〜!!」

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「────で、依頼とは何かニャ?」

「えーーー依頼とはですね・・・というか銃口下げて貰えません?」

アザートはまだ銃口を向けていた。

「気にするな、続けろ」

「・・・依頼とはですね、貴方達が話していた連続殺人事件の事なんです」

「「(続けるんだ・・・)」」

「私、こう見えて異形ライセンスを持つハンターなんです」

女はそう言ってあるライセンスを見せた。

「ほぉ〜う、『民ハン』だったのニャ〜。何々?フレイヤ=メルタノ、17歳・・・若いのにやるね〜」

『民ハン』・・・それは『民間ハンター』の略である。

国立の異形者対策局とは違い、その名の通り民間企業が運営している異形ハンターの集まりである。

年々異形者増加に伴い国の対策局だけでは殲滅が不可能と考えた国が毎年独自の試験を行い、それに合格した者のみがハンターの資格が取れる。

この政策により異形討伐報告は増加していった。

しかし、アメリカの国立対策局・EF協会は・・・

『箸にも棒にもかからない雑魚が戦場に来るだけの愚策』

この政策を苦言している。

因みに、ニャルラ率いる『バリアント』は表向きは民間企業と謳っているが、実は国立なのだ・・・

「えっ!17歳ってまだ高校生じゃないですか!?なんでハンターなんかしているんですか!?」

「ウチは貧乏で、母と二人暮らしなんです。だから、少しでも楽させようと思って去年資格を取ったんです。まぁ、それも先週まででしたけどね」

そう言うと、フレイヤは下を向いた。

「先週までって・・・それはどう言う事・・・」

「殺されたんですよ。例の殺人鬼に・・・」

その言葉に部屋全体が沈黙を示す。

「母は・・・私がハンターで働く事に反対していました。『そんな危険な仕事をアンタはしなくていい』と・・・だから母は夜遅くまで仕事をしていました」

「君がハンター業をしなくていいように・・・か」

「そんな時・・・母が朝になっても帰って来ない日があったんです。どうしたんだろうと心配してた時・・・電話で・・・警察から・・・母が・・・殺されたって・・・」

話しているフレイヤの目は涙で歪んでいた。

「私は仇を取ろうとすぐに思い立ちました。でも、私だけでは勝てない、それは分かりきっています。だから、お願いします!お金はいくらでも払います!どうか・・・どうか・・手を貸して下さい!!」

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