『国境騎士団・バリアント 〜「お前は存在してはいけない生物だ」・・・俺と対峙した者は何故か不思議と口にする 〜』 第7話
第6話
「────貴様は『堕とし子』で殺してやろう」
「『堕とし子』・・・だと?」
何だ?それは・・・
アークはそう口にしようとした瞬間・・・
ザワ・・・ザワザワ・・・ザワザワザワ・・・ザワザワザワザワザワザワザワ
辺り一帯がざわめき出す。
否、蠢き出したと言った方が正しいだろうか・・・
「な・・・何だッ!?」
声を荒げながらアークは辺りを見渡す。
明らかに空気が変わった。
ベッタリした重々しく、凍てつくような空気・・・
何十人もの眼から一斉に見られているような感覚・・・
「何をしたッ!!─────なっ!?」
一瞬だ。
たった一瞬目を離しただけだ。
ただ周りを見る為一瞬目を離しただけだった。
しかし、次に目の前の男・・・アザートに目をやると、不気味な笑みを浮かべながら消え掛かっている。
否、辺りと同化・・・暗闇と同化していった、と言う方が正しい。
まさに闇に同化していく悪魔・・・
「すっ・・・姿を隠そうが意味が無い!貴様の攻撃は俺には届かん!何をしても無駄だ!」
この空間に必ず居るであろうアザートに向け、吠叫ぶアーク。
ガザッ
アークの左方向からある音がたった。
「そこか!!」
ドバァァァン!!!
アークはそこに発泡・・・肉片や血飛沫が舞うことは無い・・・
空を斬ったか・・・否、違う。
血や肉の代わりにナニカが宙を舞った。
黒いナニカが宙を舞った。
「何だ?・・・ヒィ!!」
アークはその正体を見破った瞬間、背筋が凍る。
その正体とは何か?
一言で言い表すなら『蟲』
大量の蟲の集合体であった。
蟻、団子虫、亀虫、蛾、百足、蚰蜒、蜘蛛、蜚蠊・・・et
それら全てが蠢きあっている。
「新たな能力『堕とし子』は2段階の攻撃に分かれている。それは1段階目だ」
何処らからともなくアザートの声が鳴り響く。
「1段階目・・・それはある種無差別攻撃であり、全ての敵に相対出来るであろう攻撃だ。普通なら『蟲』は恐怖、嫌悪感を湧くだろう?」
「な・・・何が言いたい!!」
まだ何もされていない・・・
ただアザートの攻撃はまだ恐怖を煽っているだけだ。
しかし、この攻撃は着実にアークの精神をすり減らしている。
「そして、時が経つと・・・顕現する。貴様の恐怖の根幹が・・・」
「何?」
そうアークが問うた次の瞬間、
瞬間、気配・・・
後ろから複数の人のような気配が発する。
「今度は何だ─────えっ」
振り返ると・・・
「お前脚遅っそ!」
「おい、こっち来んじゃねーよドンガメ!」
「クセーんだよ!」
眼前には思い出したくも無い記憶・・・
封じていた幼少の頃の記憶が存在した。
* * *
アーク 小学校時代
「おい、みんな見ろよコイツ。50m15秒だってよ。遅すぎるだろコイツ」
「亀じゃね。ドンガメだコイツ。アッハッハッハッハッハッハ!!」
「おい、コイツ泣いたぞ!亀って確か泣くのって子供産む時って聞いだぞ!」
「じゃあ、子供産むんじゃね?亀生まれるんじゃね?」
「産〜め!」
「「産〜め!」」
「「「「「「産〜め!!!」」」」」」
* * *
「な・・・なんだこれ!なんなんだコレは!」
アークはアザートに向け怒鳴るも何も返ってこない。
「何うるさい声出してんだよ!亀!」
「うるせーんだよ!トロいくせに」
アークを虐めていた者達が罵る。
「う・・・うるさい!俺はもうあの頃とは違うんだ!お前らよりも速いんだ!」
アークはそれらに向かって怒鳴る。
「・・・プッ・・・アッハッハッハッハッハッハ!!!速いんだってよ、亀が!」
「そんな訳ないじゃん!速い訳ないじゃん!亀の癖に」
それらは煽る、煽る、煽りまくる。
徹底的にアークを煽りまくる。
「なっ・・・なんだと!!!」
「だったら走ってみろよ!速いってのを証明してみろよ」
「「「そうだそうだ〜、証明しろ〜」」」
その言葉にアークは尾が切れた。
「やってやる!見てろよ、お前ら!!!」
そう言ってアークは走り出す─────事はなかった。
バダンッ
代わりに倒れたのだった。
「おいおい、見ろよみんな。倒れ出したぜ!まさかそのまま走るのか?いや、亀だからそりゃそうか」
「「「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」」」
それらは一斉にアークを笑い物にした。
「違う、コレは違う!足がもたついただけだ。見てろ、今度こそ走ってやる!」
しかし、アークは倒れたままであった。
「何故だ!何故動かない!何故─────」
瞬間、戦慄した。
何故走れないか?
答えは単純明快であった。
足が無かったのだ!
両足が既にぶっ飛ばされていたのだった。
「おい、速く走れよ!」
「そうだ、速く走れよ!」
「「「「「走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!」」」」」
走れのコールが合唱のように鳴り響く。
アークの頭に鳴り響く。
「おい、どうした?神速なのだろう?見せてやれよ、貴様の速さを────」
合唱が鳴り響く中、アザートの声が聞こえた。
その方向に振り返ると・・・いた。
両足を持ったアザートが立っていた。
「あ・・・あぁ・・・俺の・・・」
「恐怖とは実に素晴らしものだ。正常な判断を下せない。痛みも伴わない。故に足を奪われている事も分からない」
ドサッ
手に持っている両足をアザートは落とした。
「だが、貴様は異形者なのだろう?ならば、足を再生させる事も出来るはずだ。勝負は此処からだ!さぁ再生させろ!」
そう言ってゆっくりと近づくアザート。
「おい、どうした?恐れで人間の姿を保てなくなっているぞ?さぁ、再生しろ!再生して見せろ!深淵を見せてくれ!俺に深淵を見せてくれ!」
「ウ・・・ウワァァァァァァ!!!来るな!!!コッチに来るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アークの叫び声が鳴り響いた後・・・沈黙が流れた。
先程まで騒がしくざわめき合っていたのが嘘のように沈黙する。
「・・・つまらん。もういい。お前ら、コイツを好きにしろ。これ程までにつまらん男だったとは・・・弾丸を避けるとこまで面白かったが・・・それまでの男か」
アザートはそう言い残し、地上へと続く階段へと向かった。
「おい、待て!待ってくれ!どうなるんだ!俺はどうなるんだ!」
アークは声を荒げる。
しかし、アザートは振り向かなかった。
二度と視線に入る事は無かった。
「どうなるって・・・知ってる癖に」
代わりに背後にいた子供が答える。
「知ってる癖に・・・アハハハハ」
「「「知ってる癖に・・・知ってる癖に・・・ウフフフフ」」」
「「「「知ってる癖に」」」」
過去の幻影が虚に笑いながら答える。
ゆっくりと這い寄りながら・・・
数秒後、地下は断末魔の叫びが鳴り響いた。
しかし、アザートのとっては静寂となんら変わらない。
アザートにとってアークは既に『どうでも良い』存在となってしまったのだから・・・
──────
────
──
「だーかーらー!俺はなーんにも知らねーんだって!知りたきゃアークに聞けって言ってるだろ!ほら!だから、この縄をほどけ!」
「ほどきませんよ!アザートさんを何故襲撃したのか理由を話すまでは」
ルイは先の戦いでニャルラとヨグに敗れ拘束状態となっていた。
しかし、意思が固いのか何も話さない、ルイ。
まぁ、拷問も何もしてはいないのだからそりゃそうだが・・・
拷問をしないのは単純に拷問が嫌いだからだ、ヨグが。
ニャルラは別にそんな事気にしないが、生憎数分前どっか行ってしまった。
「てゆーか、お前どんな所から話してんだ!」
「えっ?何ですって!聞こえないです!っていうか聞きたくないです!」
ヨグはルイから大分離れた場所から監視していた。
それは何故か?・・・勿論、男性恐怖症だから。
「(どうしよう?)」
ヨグがそんな事を考えていると、ニャルラが帰って来た。
「おう、ヨグ君なんか喋った?」
「いえ、何も喋ってはくれませ────って何持ってんですか!?」
ニャルラの両手には抱える程の数の骨董品があった。
「テッ・・・テメー!何持って来てんだ!」
「何って・・・良い物ないかなぁ〜って思って部屋探索してたら何やら高そうな物がチラホラと・・・」
「で、持って来たと・・・」
「強盗じゃねーか!?返せ!」
ルイは大声を上げニャルラに詰め寄ろうとするが、縛られている為動けない。
「強盗〜?人聞き悪い事言わないで欲しいニャ?コレはエコな行為ニャ?」
「え・・・こ?」
ニャルラが何食わぬ顔で発言した言葉にルイは一瞬思考停止した。
「そうじゃないかニャ?今日、この日、此処で君等は死ぬのだよ?決定事項なのだよ?そしたらどうする、この骨董品達は?廃れてボロボロになるまで此処に置いとくのかニャ?NO NOそれはエコじゃないニャ。私達が貰うことによって未来永劫コレ等は廃れないニャ。分かるか?コレはエコだと」
それは『エコ』ではなく『エゴ』では?
『エコロジー』ではなく『エゴイズム』では?
そんな言葉がヨグの脳裏によぎったが、あえて言わなかった。
言った所で何も変わらないからなぁ
ヨグは諦めの顔でニャルラを見る。
「なっ・・・なんだと?死ぬだと?ふざけるな!お前等はアークによって殺され────」
「誰によって殺されるって?」
奥の方から聞き覚えのある声が鳴り響く。
瞬間、全員の目線が奥に向く。
コツ・・・コツコツ・・・コツコツコツ・・・
視線の先・・・闇から現れたのは漆黒のコートに身を包み、手には唯一輝きを示す銀の装飾銃─────
「アザートさん!!」
そう、勿論アザートだ。
「やあやあ、アザート君無事で何よりだよ〜。おっとっと、危ない危ない」
ニャルラはそう言い、片手を上げると骨董品が落ちかけた。
「・・・何だそれは?」
「金になるかな〜って思ってニャ」
笑顔・・・満面の笑顔である。
しかし、それはニャルラだけではなかった。
「ほう、中々高価な物を持っているのだな。腐ってもこれ程の屋敷を所有してる訳だ」
此処にも居た。
もう1人、悪魔が。
そんな会話に業を煮やしたのかルイは叫んだ。
「何だよオマエ!何で死んでないんだよ!何で此処に居るんだよ!アークはどうした!」
「アーク・・・?知らんな。生きているのか?はたまた死んでいるのか?」
アザートは挑発するようにニヤける。
「知らないって・・・アザートさん、殺したんじゃないんですか?」
「俺は殺していない」
「もしかしてアザート君、『堕とし子』使ったでしょ。だとしたら相当鬼畜だね」
アザートの言葉に察したのか納得するニャルラ。
「ヒェッ、あの技使ったんですか?やりすぎじゃ・・・」
ヨグはそれを聞き、ブルっと身体を震わせる。
「何だ!その『堕とし子』ってやつは!アークはどうなったんだ!」
「知らないと言ったろ・・・だが、まぁアーク自身だけはどうなるか『知ってる』だろうな」
そう言うアザートの表情を見て、ルイは恐怖という恐怖を感じた。
身体が小刻みに震え出す。
さっきまでの威勢が嘘のように震え出す。
「んじゃ、アザート君も戻った事だしもう一度聞くよ。何故アザート君を狙ったの?」
「俺は知らない!関係ない!元々アークが言い出したんだ!アークが×××××国の大統領が恐れた異形者がどんな奴か知りたいって息巻いてただけで俺は関係ない!」
先程まで一切割らなかった口までも既に壊れたファスナーの如く開いた。
「ほーう、ただ自分の実力を過信しすぎた哀れな人間・・・いや、異形者か。そんな奴の為に27人も犠牲になるとは世も末だな」
その27人殺したアザート君(さん)がそれを言うのか?
ニャルラとヨグが心の中でツッコミを入れる。
「だ・・・だから俺は何にも関係ねぇーんだよ!俺は唯アイツに脅されてただけで・・・」
「それにしては随分とノリノリだったような・・・」
「五月蝿い!!んな事はどーでもいい、助けて─────」
プルルルルルルルル…プルルルルルルルル…プルルルルルルルル
誰かの電話が鳴った。
「おっと、キタキタ。ちょっと待ってニャ〜」
どうやらニャルラの電話のようだ。
「はい〜、もしもしべライザ?どうどう、何か分かった?」
『はい、ニャルラさん。貴方の言う通り、このルイという男相当な悪ですよ。ソイツ────』
「────ほーう、それはダメだね。万死に値するね。いや、億死にも値するんじゃん。いや〜、ありがとね〜」
『それはどうも。でも毎回毎回言ってますが、こんな簡単な事は自分で調べませんか?調べれますよね?そう、調べれるんですよ。私も忙しいんですよ』
「だってメンドくさいんだもーん!」
『「メンドくさいんだもーん」じゃないよ!そうなら、ιに頼めば良いじゃないですか?そっちの方が早くて確実────』
ピッ…プーーー…プーーー…プーーー
切った、切りやがった、明らかに話してる最中なのに・・・
ニャルラ以外の3人が同時に頭によぎり、目を細めニャルラを見つめる。
「なっ・・・何よ〜!?だって私、ι苦手なんだもん!『人間、IQが30違うと話がかみ合わないらしいですが、異形者にも当てはまるんですね』って私の目の前で言うんだよ!酷くない?」
「まぁまぁまぁ、ニャルラさん落ち着きましょう、っていうか落ち着いて!」
「────っと、話が完全に逸れてしまったニャ。ゴメンゴメン・・・さて、アンタを少し調べさせて貰ったニャ。随分と胸糞悪い商売しているそうじゃないかニャ、え?『闇夜の巨匠・ルイ』さんよ?」
数秒前までふざけた声に怒気を帯びる。
「えっ────」
その衝撃的な言葉にヨグは言葉を失った。
「異形者により家族を失った多くの子供らに名ばかりの里親を紹介。ソイツらと手を組んで変態御用達のビデオを撮って売り捌く・・・界隈では『巨匠』とまで称されてるらしいじゃないか?」
「・・・違う。アンタが何を聞いたか知らねーが、アンタは誤解してる。俺がそんな奴に見えるか?そんな変態糞野郎に見えるか?その話が嘘な事は毛も生えてないガキだって分かる話────ガァ!?」
ルイがそう言い終わる前に顔面を蹴り上げるニャルラ。
蹴りを入れたニャルラの顔はいつものふざけた表情ではない。
そんな表情が一切見えない・・・一言で言えば、そう闇だ。
何人の有無を飲み込むブラックホールのようだ。
「何度も言わせないでくれよ変態糞野郎?仮に話が嘘であったとしてもそんな事どーでも良い事・・・どーでも良い事なのだよ。お前はこの今際の際で出来ることだけを考えろ、それがお前の人生最期の思考ニャ」
──────
────
──
「あ〜あ〜あ〜・・・とんだ茶番だったニャ。バカバカしいったらありゃしない」
「そうには見えないんですけど・・・」
ヨグが小さく呟く・・・
それもそうだ。
ニャルラの目の前には豪華な料理が並べられているのだから。
更にニャルラの顔は『ニッコニッコ』が止まらない。
ニャルラ達が居るのは高級レストラン。
ニャルラは屋敷から盗す────貰った骨董品を直ぐに売り捌いたのだ。
「それはそうとアザートさんの賞金首の件はどうなるんですか?」
「それはもう大丈夫ニャ。知り合いにそのサイトは閉鎖させたニャ」
「別に閉鎖させなくても良かったんだがな。馬鹿が殺されに来るだけだから」
アザートが何食わぬ顔で答える。
「いやいやいや!アザート君が困らなくても私達が困るんだニャ!よく分からん奴が仕事の邪魔しに来るんだよ!仕事になんないよ!」
「冗談だ、冗談」
本当にそうか?
ニャルラとヨグはそう思いながら目を細めアザートを見つめる。
「まっ、この話はまた後で良いかニャ・・・そろそろ限界が近づいて来たニャ、お腹の・・・では、一仕事終わったという事で・・・食べまくるとするかニャ!」
「すいません、ニャルラさん。アザートさん、もう食べてますよ・・・」
「ちょっ、何勝手に食べてるの!?此処はカンパーイする流れでしょ!?ちょっ!?まだ食べるな!・・・ってそれ私の肉ッ!!」
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