【決定】オマリ・ケリーマンの移籍について思うこと【アストン・ヴィラ2024年夏移籍考察(5)】

アストン・ヴィラサポーターの皆さん、そしてプレミアリーグや欧州サッカーのファンの皆さん、2023/24シーズンも応援お疲れ様でした。

2024年夏のオフシーズンは、アストン・ヴィラに関する移籍の噂がある選手や退団の可能性がある選手について個人的な見解を「note」で更新していこうと思います。

第5回はチェルシーへの移籍が決定したオマリ・ケリーマン(18)についてです。

今季のプレシーズンマッチで一躍有名となった神童について綴ります。

(1)移籍の流れ

6月29日にチェルシーはアストン・ヴィラからU-20イングランド代表MFオマリ・ケリーマン(18)を完全移籍で獲得したと発表しました。移籍金は推定1900万ポンド。契約年数は6年。

ほぼトップチームでの実績がない中で、これほど移籍金が高騰したのは両クラブがPSRを遵守した中で選手を獲得をしたい思惑があるからでしょう。アストン・ヴィラはチェルシーから推定3750万ポンドの移籍金でオランダ代表DFイアン・マートセン獲得しており、その関係でケリーマンの価格も高騰したと考えられます。

ただ、一概に移籍金が高すぎるとも言えません。2年前にアストン・ヴィラはチェルシーに契約が残り1年で、同じくトップチームでの実績がなかったカーニ・チュクウェメカを2000万ポンドで売却しています。PSRやスワップ取引が関わっていなくても、この評価額が付いていた可能性もあるでしょう。

アストン・ヴィラとエバートン間で成立したティム・イェロブーナム(アストン・ヴィラ→エバートン)とルイス・ドビン(エバートン→アストン・ヴィラ)の移籍でも述べましたが、重要なのはケリーマンもマートセンも両クラブに強く求められて移籍をしているということです。

チェルシーは現オーナー体制となってから世界中の有望株を獲得し、若い選手を中心とした強化方針をとっています。『Telegraph』のマット・ロウ記者によると、ケリーマンに対しては今冬の移籍市場から獲得に興味を示していたようです。


一方のマートセンについては、別の「note」で詳細を書きましたが、左サイドバックは優先順位の高い補強ポイントでした。というのも、アレックス・モレノとルカ・ディニュは今年31歳と年齢的にはベテランに差し掛かっており、どちらかの選手を放出する可能性が高いです。恐らくクラブは高年俸かつ、プレースタイルが合わないディニュを放出したいでしょう。

となれば、若い攻撃的な左サイドバックの獲得に乗り出すのは必然的で、マートセンのプロフィールとクラブの補強ポイントは合致します。今夏の移籍市場に出ている選手の中では、彼が最もウナイ・エメリ監督のサッカーに合う左サイドバックでしょう。

(2)オマリ・ケリーマンの経歴

今年の9月に19歳の誕生日を迎えるケリーマンは北アイルランド人の母親とジャマイカ人の間に生まれました。そのため年代別代表では長らく北アイルランド代表を選択していましたが、昨年9月に国籍を出身地のイングランドへと変更し、直近はU-20イングランド代表に選出されています。

彼はアストン・ヴィラのアカデミー出身ではなく、ダービー・カウンティのアカデミー出身です。16歳で迎えた2021/22シーズンにウェイン・ルーニー監督率いるトップチームでベンチ入りを果たすなど、同クラブで最も期待されていたアカデミーの選手でした。

ところが、クラブの財政難に伴い、2022年冬の移籍市場で多くの選手を売却する必要が生まれ、アストン・ヴィラが60万ポンドの保証金を支払って獲得しました。

退団の際にルーニーは「彼はダービー出身の地元の若者で、クラブを離れたくなかった」とコメントしています。

アストン・ヴィラ移籍後は主にU-21でプレー。ウナイ・エメリ監督から高く評価されると、昨夏に行われたプレシーズンで、トップチーム所属の選手では唯一アメリカツアーに参加しました。ニューカッスルとの試合では得点にも絡むなど、10代の選手とは思えないほどのクオリティのプレーを連発しています。

迎えた今シーズンは、UEFAカンファレンスリーグ(ECL)のグループリーグにて、登録メンバーから外れた(加入から2年を満たしていないことからクラブの育成枠ではない。決勝トーナメントからは登録メンバー入り)こともあって出場機会は限定的に。怪我の影響もあってプレミアリーグデビューは4月のマンチェスター・シティ戦と、想定よりも遅くなりました。

アストン・ヴィラは2列目の選手層が厚いことから、なかなか出場機会に恵まれず、結果的に公式戦6試合の出場に留まっています。

ちなみに弟のジャーミー・ケリマンも昨年10月にアストン・ヴィラのU-15に入団しました。

(3)オマリ・ケリーマンのプレースタイル

ユース年代ではストライカーやウイング、トップ下と幅広いポジションでプレーしていましたが、彼の良さが最も活きるのは2列目でしょう。

190cmと長身ですが、彼の最大の魅力は滑らかな足下のタッチ。ライン間でボールを受けるのが上手く、流れるようなトラップからのターンで前を向き、そこからパスやストライドの大きなドリブルでチャンスを演出します。

これは当たり前の話ではありますが、まだ18歳の選手なため「フィジカル」には伸びしろを残しています。誰が見ても細身の選手であり、プレミアリーグで活躍するには肉体作りも同時並行で行う必要があるでしょう。

最後に、恐らくチェルシーサポーターが最も気になっている「怪我」についてです。今季は2度負傷しています。1つ目が11月に負ったハムストリングの負傷。2つ目がシーズン終了後に、香港で行われた7人制のサッカーの大会に出場した際に負った怪我です(詳細は不明)。

松葉杖をつき、保護ブーツを履いた写真が流出しているので、もしかすると現在も負傷しているかもしれません。プレシーズンに初日から参加できているかどうか確認する必要があるでしょう。

(4)オマリ・ケリーマン退団についての個人的な見解

もちろん彼のような才能を手放すことは惜しく、リターンがない中での放出は反対です。ですが、今回はイアン・マートセンが絡んでいます。

少し話は逸れますが、アストン・ヴィラにとって、これからの3年が今後のクラブの明暗をわける重要なシーズンとなるでしょう。というのも、クラブは2027年までに年間の収入を5億700万ドルに引き上げる計画を推し進めています。

なぜ収入を上げる必要があるのかは、今夏にPSR(収益性と持続可能性に関する規則)の影響を受けていることがすべてです。現在のPSRは3シーズンを通して1億500万ポンドの赤字が認められています。

これは「収入と支出の差=収益」の話であり、収入が多いクラブであればあるほど使える資金は多くなります。

これに対して疑問を呈しているのがアストン・ヴィラです。他のどのビッグ6のクラブよりも3年間での支出が少ないにも関わらず、PSRの規定を上回る損失を計上しています。

スポンサーやファン数が多いビッグ6の方が収入が高く、アストン・ヴィラやニューカッスルのような資金力がありながらも、彼らとの比較で収入が少ないクラブにとっては不利なルールです。言い方は過激かもしれませんが、強者を守るためのルールと捉えることもできます。

従って、彼らの間に割って入るためには、収入を上げる必要があるのです。アストン・ヴィラの経営陣は収入アップに重きを置いており、クリス・ヘックらアメリカでスポーツビジネスを成功させた人物を雇い、すでに効果は発揮されています。アディダスのサプライヤー契約をはじめ、多くのスポンサー契約を締結し、悪い契約はすべて断ち切ってきました。

スポンサー契約以外に収入を増やすために重要なのが、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権の確保です。少しケリーマンの話からは逸れてしまいましたが、現オーナー体制でアストン・ヴィラはCL常連クラブになることを一つの目標としています。

となれば、目先の即戦力が重要となります。マートセンは今季のCLで準優勝となったドルトムントで活躍し、昨季はバーンリーでプレーをしました。彼はヴァンサン・コンパニに下で、彼は攻撃時に「3-5-2」の左CBと左ウイングバックでプレーしています。配置で言えばアストン・ヴィラと一緒です。

すでにCLの経験があり、アストン・ヴィラが使う配置にも慣れている彼を獲得することは理にかなっています。一方のケリーマンは仮に残留をしたとしても、来季から主力選手として活躍できる保証はありません。となれば、彼の放出も致し方ないと思います。

ダービーからアストン・ヴィラに移籍した時と同じように、ケリーマン自身が望まないタイミングでの移籍となってしまったかもしれませんが、今度こそ自らの未来を預けるクラブに出会えることを願っています。

アストン・ヴィラサポーターが彼の移籍を惜しむようなビッグな選手になって欲しいですね。

新加入選手についての考察も随時更新していこうと思うので、よろしければXのアカウント(@yoichiro_yasu)やこちらの「note」をフォローしていただけると幸いです。

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