WEC黄金期の開幕
7ワークスの大集合
今年もWECの火蓋が切って落とされる。
開幕戦はアメリカのセブリングを舞台に行わる
【セブリング1000マイルレース】だ。
セブリング・インターナショナル・レースウェイは、1950年に米空軍の
航空基地であった場所で滑走路と誘導路を組み合わせて設営されたサーキット。
故に、場所場所で舗装路の特性が異なり、路面もバンピーなのが特徴。
マシンとドライバー双方に他のサーキットとは異なる負荷を強いることで有名だ。その伝統的なサーキットを舞台に、およそ8時間に渡る激闘でWECは開幕する。
そして今シーズンの最大のトピックは、その参戦ワークスの多さだろう。
昨年はトヨタとアルピーヌのみが通年で、部分的にグリッケンハウス。
そして、モンツァからはプジョーが加わったもので
全戦に相まみえたのは3台のみという状況だった。
16年を最後にアウディが去り、17年を最後にポルシェも退き、メーカー直系のワークスとしてはトヨタのみが残った。
アルピーヌも中身はレベリオンだったし、ジネッタも出たには出たけれど、財政難とCOVID-19の影響でひっそりとその姿を消した。
みんな大好きバイコレスも当時はメーカー直系ではないため、スペクテイター達の愛されプライベーター枠だとする見方が妥当だろう。
そういう意味では、22年後半からプジョーが戻ってきた来たことは大きなトピックであったし、この開幕で更にそれは増えて、LMHのハイブリッド勢はトヨタとプジョーに加えてフェラーリが姿を現し
厳密な同車種同カテゴリーワークスとしては、トヨタ、ポルシェ、アウディが凌ぎを削った2016年当時と同じ数になった。
ハイパーカー規定はここからが更に門戸が広く、LMDhにポルシェ、キャデラックも顔を揃えたし、LMHの非ハイブリッド枠には、グリッケンハウスとヴァンウォール(バイコレス)も揃うなど百花繚乱の時代を迎えた。
早ければLMHにイソッタ・フラスキーニが23年後半のモンツァに出てくるとも言われているし、更に来年はLMDh勢にBMWとランボルギーニもWECでのプログラム開始を予定している。
その豪華さと数だけを見たら、90年代後半のGT1時代すらを超えているのだ。
各ワークスのマシン達
ここからは各ワークスのマシンについて、ざっくりなんとなくを語って行こう。筆者は特に航空力学に精通している訳ではなく、各チームの内情もニュースで見聞きした程度ので、なんとなくで云々というのを簡単に綴っていく程度だが許して欲しい。
トヨタ
GR010ハイブリッド (LMH)
21年のハイパーカー規定元年からマシンを走らせているトヨタ
既にGR010はル・マンでも2勝を挙げており、3年目となる今年は信頼性の面で他をリードしていると考えられる。
今年のプロローグで姿を現した23年型のGR010は、ヘッドライトやフロントカナード、フロントの空力流路が変わったことなど
パッと見でその変化の多さがよくわかる。特にフロントのダウンフォース不足が昨年から課題であるとされており、その解消のために多くの変更を加えられたものと思われる。
(フロントカウルに差し込む日差しが流路の変更があったことをよく示している)
レギュラードライバー陣6名はすべてル・マン優勝経験者で固められているし、昨年から変更はないので不測の事態が発生してももっとも生きて残る確率が高そうなのもトヨタと言える。特に21年には燃料系のトラブルを抱えながらも、ピットで修理をせずコース上で何とかしてまうなど
往年のアウディにもまして不死身っぷりに磨きがかかっているので、楽観的に考えればそのタフネスさが、勝利を引き寄せてくれるだろうとも言える。
プジョー
9X8 (LMH)
22年モンツァからデビューした9X8、厳密にはまだ本格デビューから1年を過ごしていないが
トヨタ以外のエントラントに対しては、半年の実戦経験のリードがどうでるか。マシンはその革新的なリアウィングレスで話題を集めた姿をしっかり維持している。
この路面がバンピーなセブリングでは、そのエアロパッケージとの相性の悪さに手を焼いているのか、プロローグでのタイムはポルシェとキャデラックのLMDh勢の後ろに着く形となった。
だがまだプロローグであり、フリープラクティスや予選前なのでプロローグだけを見てプジョーが遅いとかマシンバランスに苦しんでると断定はできない。苦労しているとしても、このパッケージングをモノにできたとしたら、その戦闘力はかなりの物になるはずだ。尖っている分、手懐けられたらばその速さはググっと増してくるに違いないと筆者は思う。
しかし、やっぱり何時見ても、他ワークスとは一線を画すその個性的な見た目は非常にユニークで未来を感じさせるマシンだ。
本車はル・マンに焦点をガッチリ当てているとされ、セブリング等はプライオリティが低くても納得だ。昨シーズンは信頼性の向上が課題であったのは当然で、この開幕戦で信頼性と速さをどこまでバランスさせてくるのか非常に興味深い、最も侮れない存在がプジョーだ。
フェラーリ
499P (LMH)
50年ぶりにフェラーリがFIAが管轄する耐久の場へ投入するワークスマシンとなるのが499Pだ。
アメリカでは29年前に333SPがIMSAを戦っており、95年にはこのセブリングの地で勝利を挙げている。だが、フェラーリとしては、333SPが499Pの直接てきな系譜の祖先ではなく、312Pを祖先としており、故にフェラーリ自身が50年ぶりというワードをよく使っている。
マシンは非常に派手な見た目をしていて、コンサバティブなGR010、ユニークな9X8ときて、ゴージャスな499Pと言って良いだろう。
派手ながらももっともプロトタイプマシンらしさで、分かりやすいカッコよさなのに、チープな感じでは無いのが流石のフェラーリだ。
このセブリングは昨年のモンツァでプジョーがそうだったように、あらかたの不具合にどう対処するかになっていくだろうと思われるが
499Pの熟成が進めばタイヤサイズが同じ物を選択するトヨタとどの程度の差があるのか、そういった比較対象車種として今後のパフォーマンスに目が離せない。
キャデラック
V-シリーズ.R (LMDh)
WECのLMHと混成を成すLMDhからはキャデラックとポルシェが出てきたが、本命地元勢のキャデラックはプロローグからトヨタに続くパフォーマンスを見せ、注目を集めている。
ダラーラのシャシーをベースに仕立て上げられたV-シリーズ.Rは、この間のデイトナ24時間で優勝こそアキュラに持っていかれたが信頼性という面は一番優れていた。
セブリングでの経験やデータの集積という点でも、キャデラックはIMSAの実績があり、また、今期からのタイヤウォーマーを使用しないという点でもIMSAでの経験もあり、セブリングでトヨタと優勝を争うことを予想されている。ドライバー布陣も、元ポルシェのLMP1プログラムをこなしていたアール・バンバーが在籍しており、そのパフォーマンスは決して侮れない。
ポルシェ
963 (LMDh)
もう一台のLMDhはポルシェ963だ。伝説のポルシェ962Cから名前を継いだポルシェの最新耐久レーサーとなる。
シャシーはマルチマチックを選択し、キャデラック同様にこの前のデイトナ24時間で実戦デビューを経験している。
ドライバーには、以前のLMP1プログラムでも名を連ねたアンドレ・ロッテラーが再びステアリングを握る。
オペレーションはペンスキーが担当し、これは2005年~2010年までのアメリカンル・マンシリーズで同チームがオペレーションを行ったRSスパイダー以来の組み合わせだ。
元祖耐久王のポルシェ謹製のマシンだけに、今年のル・マンもなんだかんだで結構いい位置に来るんじゃないかという根拠のない脅威感を感じてしまう。
特にル・マンの女神はポルシェにベタ惚れなので、なんかこうレースが荒れたら早々にポルシェが20勝目の大台に飛び乗る結末もあり得る・・・かも。
グリッケンハウス
SCG007 (LMH-NonHY)
ハイパーカーとしては21年途中からデビューしているので、今回の7台中トヨタに次いで最も早いお目見えを果たした部類だ。
21年のル・マンにいきなり4位と5位で完走を果たしたのも印象深く、22年のル・マンでは3位表彰台も獲得するなど、一介のプライベーターとしてはかなり頑張っている。しかし、当初からそのパフォーマンスはムラっ気があり、また一部レースはスキップが目立つなど、FIAは当初より全戦参戦を求めていたが、昨年までのLMH参戦メーカーの少なさから、その辺を遵守せずとも許されてきた。
だが、今年は既にトヨタ、フェラーリ、プジョー、ポルシェ、キャデラックと揃っているため、同じような事を続けていると、締め出されかねない懸念もなされている。
昨年のモンツァでBoPのかなり良い値を享受しつつも優勝を挙げられなかったことなど含め、一部スペクテイターからの評判は芳しくない。
ヴァンウォール
ヴァンターヴェル680 (LMH-NonHY)
聞きなれないメーカー名であることは無理もない、1958年のF1コンストラクターズタイトルの初代王者の名であることをすぐ思い出せた諸兄は、年齢がバレるぞ。バレてしまうぞ!
その名前を引きはがせば、その実態はバイコレスだ。そう、俺たちのバイコレスである。ル・マン24秒の渾名を思い出すあのバイコレスだ。バイコレス。何度でも言おう、みんな大好きバイコレス。
あれこれFIAとすったもんだの上、今年晴れてWECの舞台へ舞い戻ってきた。毎度のことだが、こいつらは一体どんな資金繰りをしているのか謎だ。とよくネタにされている。が、決してそれは悪い意味ではなく、何度でも不死鳥の様にWECへ舞い戻ってくる様から、あの戦績で資金繰り出来てるのすげぇなという驚きと賞賛が多分に含まれていることを強調しておきたい。
今年の見どころは
今年のレーススタートは、どのイベントもハイパーカー勢が概ね10台は駆け出していくので、スタートのシーンは必見だ。
まぁそこで絡んで嘘だろ・・・・という展開もあり得そうではあるが、それでも彩り様々なトップカテゴリーマシンが10台以上も一斉によーいドンするなんて、Gr.C以来の光景じゃなかろうか。
昨年までは多くて6台、少なけりゃ3台なんていう光景もしばしばだったので、この辺はFIAも興行的に一安心って感じだろうと思う。
あとは年間チャンピオンの行方だ。今まではズッコケても最低3位は割かし確保できる状態にあったので、昨年などは割りと最後まで行方が縺れる傾向にあった。が、今年は各社大手メーカー系は2台のエントリーはほぼ確定しているので、グリッケンハウスとヴァンウォールを除いても
ズッコケるとノーポイントとほぼ同義、みたいな展開も出てくる、故にやらかす=ノーポイントの図式が成立する。
これで、選手権の行方はよりスペクテイター達をワクワクさせるようになる展開が見られるだろうと思う。
よって、8時間レースやル・マンで勝つことの重みがより増えてくるはずだ。
セブリングはもうすぐ本番
実はセブリング1000マイル自体はもう3/15からフリープラクティス1が始まるので、この記事を書いている概ね7時間後には色々と明らかになって行くだろう。
そのままFP2、FP3、予選と来て金曜日に決勝だ。しかし、舞台はアメリカなので日本時間に置き換えると決勝は3月18日(土)午前1時から
なので、土曜日に早起きすれば、レース中盤あたりからの展開を朝から見られるだろう。罷り間違って午前3時あたりまで頑張って夜更かし視聴してしまうと、ほぼゴールは夢見心地の間に迎えてしまうかも・・・
筆者の勝利予想
順当に考えれば、トヨタ・・・と言いたいところだが、なんだかんだで荒れて、キャデラックが掻っ攫う未来が見えなくもない。トヨタ2台が撃沈する様は中々考えにくいが、不可抗力的、すなわち他のマシンにぶつけられるとか絡まれるなどして、ピットで修理を強いられたりすると
優勝まで一歩及ばずみたいな展開もあり得るかもしれない。
むしろ、今年のル・マン必勝を考えれば、BoPは固定とされているが、あんまり勝過ぎても、変な条件を上乗せされても困るので
その辺はTGR-WECチームがどう上手く切り抜けるかも見ものだ。
もしくはそうでなければ、蓋を開けてびっくりフェラーリが絶好調!でなんと変な症状もなく、走り切ってしまい、いきなりデビューウィンなんていうウルトラCなシナリオも悪くない。
でも万が一そんなことがあったら、きっとポルティマオ、スパ、ル・マンとフェラーリが盛大な"俺たち"をぶちかましてくれる線が濃厚になるかなとも思ったりする。
いずれにせよ、セブリング1000マイルはもう今日からレース本番へ予定がジャンジャン進行するので、見逃さないようにスペクテイター達は要チェックだ!
世界耐久選手権の黄金時代スタートを見逃しちゃダメだぞ~!!!!
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