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LDSを経て、制作のクオリティがあがった訳|横塚明日美さん(宮城 / 30代)

LIVE DESIGN School の23年度メンバー同士が、根掘り葉掘りするインタビュー企画! 各地で活動するメンバーたちが日々考えていること、そして、LDSの参加を経て見えてきた展望とは...?

プロフィール
 
1992年生まれ、宮城県出身。アートディレクター・グラフィックデザイナー。広告制作会社勤務、フリーを経て2020年に地元の丸森町でデザイン事務所を設立。デザイン制作からブランディング・企画などクリエイティブ全般に関わる。
 宮城県は、都市部の仙台にデザイナーが集中してしまい、ローカルで活動するデザイナーがとくに少ないと思っていたところ、リードデザイナーである佐藤哲也さんのSNSでLDS開校を知る。それまでローカルに知り合いもロールモデルもいない、もやもやした気持ちがあった中で、「10年後の自分の姿が見えるかもしれない」と思って、参加を決めた。

━━ 明日美さんは、宮城県の丸森町でデザイナーをされていますよね。これまでで、とくに印象的だったお仕事をお聞きしたいです。

丸森は人口1万人ちょっとの町で、そこで2020年から「nekiwa」というデザイン事務所をしています。チラシなどのデザイン制作ももちろんやってますが、もう少し深く地域に関われるようなプロジェクトもやりたいと思っていて。

今おもしろいのは、隣町・角田市の市民大学「かく大學」ですね。いわゆる市民大学って、生け花とか手芸教室とか、おじいちゃんおばあちゃん世代の趣味のようになりがちだと思うんですが、若手とか中高生も含めてまるっと参加できるような新しい市民大学をつくりたいと、行政の職員さんから相談をいただきました。

━━ おもしろそう!明日美さんはデザイナーとして実際どんなふうに関わられているんですか?

もともとはポスターとチラシを作りたいというご相談から始まったんですが、でもやっぱり打合せしてると、「こうした方がいいんじゃないですか」と構想から関わるようになって。いまは4年目になって、大学全体の構想や企画もやらせてもらっています。

ちなみにこの大学は学部の設定がおもしろくて、2023年度は、「利他学部」「農ある暮らし学部」「発信学部」の3つがありました。去年はデザイン学部があって、私はその講師役もしていたり、今年の「農ある暮らし学部」では、地元農家さんにお話を聞いたり、みんなで種から野菜育ててみたりとかしています。

━━ めっちゃユニークですね!そんなことに関わられながら、LDSで印象的だった言葉とかシーンはありますか?

2023年8月の島根フィールドワークは大きかったですね。宮城とは地域性も全然違うし、そこで活動されている小林新也さんはプロダクトメイン。わたしはグラフィック畑で全然プロダクトデザインをしないので、「ものを生み出す」という空気感がある地域に行けたのがすごく大事な経験になりました。

あと、そのフィールドワークの最中に小林さんが「デザイナーが刃物研げないのはまずいよね」という話をされてて。それは、じゃあ自分は木を削らないから刃物は研げなくても良いっていう単純な話ではなくて、自分が普段使ってる道具に対して言われてるなと思ったんです。パソコンでも鉛筆でも、日頃の道具について何も知らないなとハッとして、危機感を持ちました。

あとはフィールドワーク中にみんなでご飯を食べたことも、すごく記憶に残ってて。運営チームに朝食を作ってもらったりとか、夜みんなでお酒飲んだりとか、土地の空気も含めて印象的でした。一般的な研修だと、日中行動して夜は解散みたいな行程が多いと思うんですけど、島根のフィールドワークは3日間かけてみんな一緒にいて、簡単には言語化できないけどすごい大事な学びをもらいました。

━━ 島根のフィールドワークは自分たちの足元を見つめ直すような時間でしたよね。LDSでの学びや気づきを経て、今後仕掛けようとされていることなどあるんでしょうか?

島根で、いろんな人がすごく真剣にものをつくっている姿を見て、自分もつくりたいなっていう気持ちが生まれました。会社を立ち上げてからの3年は、一生懸命目の前の仕事をやる、全力でやる、みたいな感じでひたすらに走ってきたんです。だから自主制作とか、半分仕事で半分遊びみたいなことをやる余裕があまりなかったんですね。でも会社のフェーズも徐々に変わってきて、なのでこれからは自主制作もやりつつ、気づいたらお金も生まれてるみたいな動きをしていきたいなと思っています。

━━ 実際に島根フィールドワークを経てつくられた自費出版本も、すばらしかったです。

現地で見たものとか知ったことをまとめた冊子をつくりました。元々紙ものが好きだったのと、一つものづくりの型をつくりたいと思って。LDSの仲間たちとか地域の知り合いに伝えたら、興味を持ってくれたり、買ってくれたりして広がりを感じています。

今後は、地域のライターさんとかカメラマンさんとかと一緒に冊子をつくって販売したりもしたいです。その先何に行き着くかは全然わかんないんですけど、でも「ローカルでやっていきたいな」っていうもともとの気持ちが、LDSを経て具体的になって。自分はここで何をしていくんだろうとか、誰と一緒にやっていくんだろう、みたいなことをちゃんと考えようという気持ちになれた。これからも、もう一段階、解像度高く考えていきたいなって思ってます。

━━ すでに変化が起こっているんですね。LDSを経てほかに変化したところはありますか?

自分でもちょっと驚いてるのは、制作のクオリティが上がったっていうことです。LDSって、グラフィックとか狭義のデザインの技術を学んでるわけじゃない。むしろもっと内面的な部分ですよね。だから制作物の成果はそんなに変わらないんじゃないかなって思ってたんですけど、実際は変わりましたね。

その理由は多分、「何が今回の制作で大事なところなんだろう」っていう対象への理解が深まったからかなと。より本質的な価値にたどり着けるようになったと思います。しかもそれって、リードデザイナーさんの話もそうですが、その話を聞いた他のLDSメンバーの考えを聞けるのも大きいです。同じ話を聞いてても、住んでる場所とかやってることが違うと、全然視点が違って、それがすごい面白くて。去年参加していた別のアートディレクター講座は、参加者同士が感想を聞く機会はなくて、自分で内省するしかなかった。でも人の感想を聞くと、「そこが学びなんだ!」とか「あれってそういうことだったんだ」とか、一段階深まっていくんだなと思いました。

━━ 複数視点が自分の中に入ってきて、結果制作物のクオリティが上がっていく。すごく面白い変化です。

そういう作用は全く想像してなかったので、「あれ、なんだなんだ・・!?」みたいな感じで驚いてます(笑)。これまで制作してても、「どうしよう、もう一段階深いとこに行けそうだけど、どうしたらいいかわかんない」って思っていたところが、それを考えるときに、いろんな視点を持てるようになったみたいな感じなんです。

━━ 運営チームも想像していなかった変化がうれしいです。では最後にお聞きします!ズバリ、LDSに参加してよかったですか?

あはは、よかったです、よかったです!(笑) 参加者の中にもいろんな人がいるっていうのが大きいですね。調べれば何でも出てくる世の中ですけど、でもそれって調べないと分からないし会えない。けど、LDSみたいに色んな人がいるところにポンって入れば、偶然いた人のことが知れて、意外性があって。思ってもないとこから、何かが知れるのがすごい価値ある情報だと思いました。「調べればいいじゃん」って思ってたけど、調べてわかるのは知識だけで、経験とか体感はわかんないなって。その気づきがすごくよかったです。

(聞き手|運営局 中井きいこ)


地域で必要とされる「広義のデザイン」について、各地のデザイナー陣と参加者とが学び合う場として始まったLIVE DESIGN School。デザイナーはもちろん、行政職員 / 地域おこし協力隊 / 学生 / 経営者 / ディレクター / ディベロッパー / コンサルタント / 編集者 / イラストレーター / 理学療法士 / 八百屋 / 販売員 / 印刷業 / 百姓 など、多様な方にご参加いただいています。詳細は 公式HP から!

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