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よく分かる インバウンド集客 #2 ~外国人旅行者に選ばれる施設になるためのノウハウとヒント~

インバウンド集客は本当に必要なのか?

インバウンド集客の話をする前に矛盾するようですが、インバウンド集客を行う必要がない(もしくはすべきでない)施設について記述します。あなたの施設が以下の条件に合致する場合、不要なはずです。

1. 常に満席・満員状態が継続している
2. 一見さんお断り
3. 外国人旅行者お断り

1.2.はそもそもオープンな集客自体が不必要です。3.は過去に外国人客と大きなトラブルがあったり、経営層や重要顧客に強い拒否反応を示す方がいたりするケースが大半でしょう。そのような施設に外国人旅行者が訪れても居心地が悪く、ミスマッチになってしまうこと請け合いです。

いずれも無理してインバウンド集客する必要はありません。インバウンド集客は売上づくりのための手段の一つに過ぎないからです。

私はこの仕事に着いているにも関わらず、外国語が得意ではありません(自動翻訳・通訳の技術が進化することを心より楽しみにしています)。ですので、もし施設を経営することになったら「日本人のみを相手にしたい」と考えるはずです。なぜなら、価値観も文化も風習も言語も異なる外国人旅行者を相手にすることは、自分と同じ日本人を相手にするより何倍も労力がかかるはずだからです。

しかし、私が対話してきた多くの経営者の考えは異なります。何故、経営層はインバウンド集客に関心を持つのでしょうか?

何故、経営層はインバウンドに関心を持つのか?

実際にインバウンド集客に成功している複数の経営者に取材しました。取材を進める中で分かったことがあります。それは、多くの施設において「インバウンド集客 きっかけは結構受動的」ということでした。つまり、こういうことです。

ポイントはいくつかありますが、「外国人旅行者の来店拡大」したタイミングで「放置する(特に何もしない)」ではなく「積極的なインバウンド集客へ」を選択したことに注目です。では、何故後者を選んだのでしょう。

結論から言うとインバウンド集客のメリットを感じているからという言葉に尽きます。では、どのようなメリットがあるのか。経営者への取材をもとに、6つのメリットに整理しました。

インバウンド集客 6つのメリット

1、売上の拡大

自店の売上構成比率において、日本人の売上が100%だった場合。それは日本人客の来店が100%であることを示しています。つまり、外国人客を集客することができれば、外国人客分の売上を上乗せすることができます。

札幌にある居酒屋の経営者が当社の営業にぼやいた話が印象的です。2018年9月 北海道胆振東部地震が発生し、その後 北海道のインバウンドは急減する時期がありました。「うちは日本人の常連で持っていると思っていた。けれども、店内の空席を見て、外国人がいなくなったことを初めて実感した。」という話です。いなくなって初めて分かること、ありますよね。

先人の格言に「一つのカゴに卵を盛るな」という言葉があります。投資において使われる言葉ですが、成功している経営層はこの視点を持っています。事業継続に向けたいわゆるリスク分散です。

先人の格言

訪日外国人観光客が少なかった時代は、日本人客のみで売上を構成せざるを
得なかった状態ですが、近年は違います。戦略の選択幅が広がっており、構成比率を変えることができる機会に、またリスクヘッジできる機会に恵まれているのです。

2、閑散時期・曜日・時間の集客

商売をしていると必ず繁忙時期・曜日・時間が存在します。例えば、飲食店は週末前の金曜日が混みますし、宿泊施設は土曜日が混みます。じゃあ、空いている月曜日に飲みに行こう・旅行に行こう…と空いていることが分かっていても、訪れるのは難しいというのが多くの消費者の実情です。

何故、訪れるのが難しいのか。その時に、または翌日に外すことができない事情があるからです。分かりやすい事情は「仕事」や「家庭」などですね。ハッピーアワーやプレミアムフライデー、タイムセールなどのお得が待っていたとしても、就業中であれば行きたくても行くことができません。特に移動に時間がかかる「旅行」はそのハードルが高くなります。

しかし、外国人旅行者は違います。特に長期滞在している外国人旅行者は平日の滞在も多く、平日の昼間に自由な時間がたくさんあります。

2019年 平日の昼間に大阪城を訪れる機会がありました。右も左も外国人旅行者だらけで、日本人はほとんど見当たりませんでした。外国人旅行者がいなくなったらここはどうなるのだろう、と当時考えたことを覚えています。まさにいま、観光地において外国人旅行者分の集客が蒸発しています。

商売上、繁忙時期・曜日・時間があるように、必ず、閑散時期・曜日・時間も存在します。この隙間を外国人旅行者で埋めることを経営層は期待しています。隙間を埋める つまり 稼働率を高めることができるわけです。稼働率が高いということは無駄が少ない・生産性が高いことになります。

ただ少人数で運営する施設は、過剰な集客によって休息が取れなくならないように注意が必要です。その場合はうまく制限・コントロールすることで利益最大化を狙うことができます。

3、客単価の向上

皆さんも旅行した際に「せっかくだから…」といった心理が働くこと、ありませんか?(もちろん緩まない方もいらっしゃると思いますが)財布の紐が緩む背景はいくつかあると考えます。

まず、「繰り返し訪れ難い」というのはポイントの一つに思えます。日々繰り返し訪れることができる近所だったら、結果は異なるはずです。

・ここにしかない(いつもの街にはない)
・ここでしか体験できない(いつもの街では体験できない)
・損したくない(えー!あそこに行ってあれ選ばなかったの!?)

そういった場面において「せっかくだから…」心理が働き、『思い出の購入』として多くの旅行者は支出を許諾しているのではないでしょうか。観光スポットで見かける有料の写真撮影サービスも最たる例です。私自身は買わない派なのですが価値観が違うのでしょう、私のパートナーはよく購入しています。「思い出はプライスレス!」とどこかで聞いたことあるセリフを口にし、財布の紐をゆるめて勝手に買っています。(現像された家族の写真を捨てられるのが嫌だ、とも言っていますが)

遠い外国からやってくる旅行者は特に顕著かもしれません。少し前のデータになりますが、成田空港のデータを記載します。あくまで一つの事例となりますが、御参考ください。

出展:成田国際空港株式会社 2020年3月期 中間決算説明会 

4、複数の購入

職場の仲間にお土産を配る、という習慣は日本人にとっては馴染み深いものですが、多くの外国人にとっては馴染み少ない習慣です。諸外国においては主に「家族」「友人」に対してお土産を買っていくことが多いです。いずれにせよ、自身は1人ですが自身以外の他人は多数居るため、複数購入が見込まれます。

繁体字圏(台湾・香港)の女性は『#戰利品』というハッシュタグを付けて
日本で購入した土産をSNSで自慢しています。どのような商品が良く購入されるか、小売店の方は参考にするとよいでしょう。

『戰利品』で画像検索した様子。クリックで実際の検索結果を確認できます

また、特に中国においては圏子(チュエンズ)と面子といった文化があり、多くの商品を購入する傾向があります。日本を訪れる際、家族・友人・知人から買ってきてもらいたいリストを受け取った中国人は面子上、お土産購入に真剣に取り組む傾向も見られます。

中国ならではの文化 圏子(チュエンズ)と面子

中国人が日本の商品・サービスを好み・選ぶ理由として、相対的に安いという話は目からうろこでした。

出典 百度セミナー内容を整理

これ本当?と思って、LIVE JAPANに在籍する中国人スタッフにも確認してみました。

「確かにこの傾向はあるが、中国も徐々に品質が良くなってきている。
北京五輪がきっかけの一つになるが、近年は愛国心も高まりつつあって、
『国潮(中国のおしゃれ:中国オリジナルもしくは中国要素を取り入れた
ファッション)』というトレンドも出てきている」

と述べている点にも注目です。

中国人による「爆買いブーム」は2019年の電子商取引法により鳴りを潜めましたが、円相場によって相対的な金額は変化するので、まだまだ日本国内ショッピングでの複数購入は期待できそうです。とはいえ、最近は中国国内にでの越境ECも伸びてきており、日本で大量に買わなくても済む状況が徐々に実現しつつあります。ただ、送料や品揃え、日本限定品など日本国内でのショッピングそのものにはとってかわりません。モノ消費からコト消費、とは言われますが、だからといって日本国内でのショッピング人気は免税もあり、変わらず高い傾向ですので、うまく仕掛けを用意するとよいでしょう。

5、目的地化

見知らぬ土地を訪れる際、情報は非常に頼りになります。特に情報が不足している土地やカテゴリにおいては重宝されます

ここでは口コミを事例として記述します。下の表はトリップアドバイザーが毎年発表していた「外国人に人気の日本のレストラン」をまとめたものです。いかがでしょうか? 日本人の感覚とは少し異なるかと思います。調べてみると当時ミシュランガイドに掲載されていた店舗は、この中で1店舗しかありませんでした。ランクインした店舗はどのような特徴があったのか、どのような工夫をしていたかについては順次ご紹介できればと思います。

トリップアドバイザー「外国人に人気の日本のレストラン」より まとめ

ここでお伝えしたいのは、母国語の口コミが来店を生んだということ。どんなに魅力的な口コミが書かれていても、見込み客が読めなければ無意味で、集客効果は皆無です。逆をいうと、母国語の口コミが伝われば上記の店舗のようにあなたの施設も目的地化される可能性が十分あるわけです。

6、日本人の集客拡大

外国人が多く訪れる施設には「何故、外国人が多く訪れるのか?」と日本のTVメディアが取材する場合があります。その番組を見た日本人が興味関心を持ち、訪れることはよくあります。

日本人以上に外国人が反応し、それをきっかけに日本人が注目した事例は
いくつもあります。千葉県「亀岩の洞窟 」や、栃木県「あしかがフラワー
パーク」、山梨県「新倉山浅間公園」、茨城県「ひたち海浜公園」などが
代表例です。

by photo AC

上記は自然景勝地の例ですが、施設においても同様です。マスメディアがSNSをチェックしている時代です。外国人旅行者の集客、からの情報発信(=SNS投稿・口コミ)は有効打になりえます。

ちなみに、インバウンドに成功している様子を国内の同業が視察として訪れることで日本人の来店が増えるケースもよく聞く話です。


以上、インバウンド集客 6つのメリットをまとめてみました。もちろん他にもメリットはあるかと思いますが、インバウンド集客に成功している経営者へのヒヤリングで主だったところは以上になります。

「現場に指示する際、インバウンド集客は本当に必要ですか?という意見がスタッフから出てくる。外国人対応をするのは現場だからだ。だから、経営層は何故やるのかの解を持っておく必要がある」というある経営者のコメントが印象的でした。ぶらさないためにも、組織内での認識を合わせるためにも、しっかり理解したい項目です。


よく分かる インバウンド集客 #3 に続きます
はじめから読む場合はこちら

文|寺岡真吾(株式会社ぐるなび LIVE JAPAN企画部)

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