見出し画像

北海道胆振東部地震。あの朝、東京オフィスで1人のスタッフが行ったこと

2018年9月6日 AM 8:30

同日の深夜3時7分、つまり5時間ほど前。北海道で非常に大きな地震が発生した。その直後、日本で初めてとなるエリア全域におよぶ大規模停電「ブラックアウト」も発生した。

これを受けて、LIVE JAPAN スタッフに招集がかかり、出社を急いだ…わけではない。ただ、当日いつもより早く来ているスタッフが若干いた程度。スタッフ間の話題はもちろん地震の話。北海道の身内から電話があった、ニュースで見た、大丈夫かね、とかそういう話だった。つまり、自分ごとではなかった。

次いで出勤してきた1人のスタッフが、自席に向かいながら声を張ったことを今でも覚えている。

「北海道滞在中の外国人旅行者が困っているはず。まず情報を集めよう」

そこから空気は一変した。皆、今の今まで自分とはどこか関係のない話だったものが、そのスタッフの一言によって急に自分ごとになった。私たちの大事な滞在中の外国人旅行者が困っている。いや、地震経験が少ない外国人旅行者は怯えているし、パニックになっている…。

中にはそう思考していたスタッフもいたかもしれない。ただその一声をきっかけに、思いはアクションに変換された。そこからは早かった。

スタッフ一同、手分けした。新千歳空港・JR北海道・札幌市営地下鉄・JAL・ANA・AIRDOの最新状況はどうだ。北海道庁・札幌市・北海道運輸局・北海道観光振興機構・北海道電力の発表はどうなっている?観光庁・JNTO(=日本政府観光局)は?皆で各サイトを調べあげた。9時の朝礼は欠席した。

しかし、ブラックアウトの影響で道内企業・団体のWebサイトにはアクセスできないことが多々あった。アクセスできたとしても、そこに最新の情報は掲載されておらず、いつものトップページが待っていた。最新の情報が載っていた場合、それはNHKニュースで得られる程度のものだった。そして、それらは当然の如く全て日本語だった。

NHKニュースで得られた主だった情報は「北海道の主要公共交通は全面ストップ」ということ。日本人の私たちはそれを理解した。ただ、外国人旅行者はどうだろう?いまだ旅の途中だ。予定の飛行機はどうなる? 自国へ早く帰りたい。空港までの代替手段は?これからの予定のキャンセルはどうすればいい?

外国人旅行者の頼みの綱、ホテルのフロントスタッフとて分かるのはマスメディアによるニュース程度の情報。旅行者が必要とするミクロな情報ではなく、マクロな情報ばかりだ。特に発生初期は。

ホテルの部屋に戻ってNHKニュースを見られたとしても、日本語ばかり。そして、NHKニュースの画面内にWebへ誘導するQRコードが表示されているがそこにも外国語は皆無だった外国人に対する視点は、そこにはなかった

ここで私たちは判断する。

LIVE JAPAN は訪日観光メディアだ。ニュースサイトではない。万が一誤った情報を発信して、取り返しの付かないことになることは避けたい。だから、災害情報は<一次情報の拡散役に回るべき>と考えていた。しかし、外国人旅行者に対して発信されている一次情報は現時点では無い。英語以外の言語は特に、だ。求めている人が情報弱者になっているのは間違いない…。

AM 9:45頃

そこで、以下のような日本語文章を作った。今わかる範囲の情報で、間違いのない情報のみをまとめた。

9/6 3:08AM に北海道で大きな地震がありました。札幌新千歳空港は6日は終日閉鎖、飛行機の運行は全てキャンセルされる予定です。また、北海道電力によると、道内全域の全295万戸で停電しています。詳しい情報が入り次第、お知らせをアップデートいたします。

読み返してみると諸々不足を感じるが、当日は時間との戦いだった。何より、日本人は相手にしていない。ここから、この文章をLIVE JAPANの外国人スタッフ勢がそれぞれ意訳した。

AM 10:30過ぎ

それぞれが意訳した文章を各言語ごとにWebページにアップする作業へ。外国人スタッフ勢からサイト管理者へバトンが渡った。

文末にJNTOと書かれているが、これはJNTOへのリンクを貼るために用意したもの。ただ、この段階ではJNTOをも多言語で情報提供が出来ていなかったので、リンクを貼ることはできなかった(※結局、JNTOは11時頃に情報をアップしたので、追ってリンク貼付対応を行った)

そして、このページを見てもらうために、LIVE JAPAN 北海道各言語のトップページに誘導口を作った。完了は10時30分過ぎのことだった。

初動から完了までおよそ2時間強。当時、初めての取り組みとしてやれることはやった。そして、その後もしばらく情報更新を続けた。停電が復旧し、風評被害を払拭する「元気です北海道」という活動が活発化したので、その情報を発信する場としてトップページから誘導し続けた。

復興期は北海道知事・札幌市長のメッセージなどへのリンクを貼り付けた

果たしてどれくらいの外国人旅行者が見たのか?

その数は決して多くはない。該当ページの閲覧数は発生から3日間で577PV(日本語除く)。2018年度の訪日外国人来道者数が312万人ゆえ、3日間で25,000人程度が滞在していたとし、それを分母とするなら2%程度へのリーチにすぎない。

けれど、スタッフ間で「なんだ、そんな急いでやることなかったねー」とは誰も言わなかった。どちらかというと、それでも500人に届けることが出来た、数字の大小でなく訪日外国人向け観光情報サービスとして私たちはやるべきことをやった、と胸を張った。

その後の私たち

あのときどこよりも早く対応することが出来たし、後日 関係する省庁・自治体からは感謝の言葉を頂戴した。実際に閲覧した外国人旅行者からの声は確認しようがなく、本当に役立ったかは不明だが…それでもよかった。

その後、私たち LIVE JAPAN の大規模災害に対する意識は大きく変わった。

2018年は外国人旅行者が多く訪れた年であり、大規模災害が多発した年でもある。9月6日の大地震の後、同月30日には台風第24号が日本に上陸することになった。

しかし、台風と地震は状況が異なる。地震は突然やってくるが、台風はいつやってくるかが分かる。だから、上陸前の28日にSNSでフォロワーに告知することにした。一次情報元のNHK WORLDを拡散する形で、英語・繁体字・韓国語の3言語にて。結果として、6万人を超える外国人へリーチすることができた。

こういった取り組みもあり、北海道運輸局より声掛けいただいた。北海道での災害発生時、外国人旅行者への拡散役として実証事業に現在も参加している。

外国人旅行者への災害情報を多言語で届けることについて、あれから日本の関係機関で相当整備がなされた。NHKニュースを見ても緊急時は英語での表記がなされているし、JNTOも専門企業に委託して迅速に・多言語で・必要な情報をSNSで速報的に発信している(下記参照)。

ただ、NHKやJNTOを知らない・見ない外国人旅行者がいるかもしれない。だから私たちは前述の取り組みを今も継続している。24時間365日とはいかないが、必要に応じて・可能な限り、微力ながら拡散役を務めている。

やっていることはシンプル極まりない。多言語の定型文章を予め用意しておく。そこには必要な一次情報元、例えばNHK WorldやLIVE JAPANの災害情報一元化サイトなどへのリンクをまとめておく。そして、大規模な地震が発生した際、影響度合いを即時に判断し、それをSNSフォロワーに投稿する。これなら早ければ数分で速報的に情報発信することができる。

津波の可能性があった 令和4年3月16日 福島県沖の地震
地震発生から4分後、速報をSNS拡散

情報が届いた人のうち、日本に滞在していない・関係ない方もいると思う。それでも、その人は滞在中の外国人旅行者の家族・友人・知人かもしれない。プル型だけでなく、プッシュ型で情報発信する理由はそれに尽きる。


さらにその後の私たち

実はこの大地震でわかったことがもう一つある。多言語で情報を得た外国人がそれを見て動いた、ということだ。それを受けて、LIVE JAPANは新たな機能を追加した。それは「災害情報タイムライン」と呼ぶ。その話はまた改めてさせていただきたいと考えている。

LIVE JAPAN は、特に旅ナカの外国人旅行者の域内消費を促したいと考えており、ストレスはその阻害要因になると考えている。私たちの強みを生かして、やれること・やるべきことの探究を進めながら、引き続き取り組みを邁進していくことを個々に約束する。

文|寺岡真吾(株式会社ぐるなび LIVE JAPAN企画部)

【関連記事】
「おまもりカード」について話をさせてもらえないでしょうか?
(多くの方に読んでいただき、本当にありがとうございます)

自己紹介。「おまもり」をキービジュアルにした、あのサービスです


「スキ」を押していただけると、励みになります! ログイン不要ですので、応援していってください!