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通達の行政文書はオンラインで公開を(下)

「情報公開制度」『骨抜き』にする「訓令通牒録」に物申す。


前回の内容

国籍喪失又は国籍離脱の手続の際に,台湾当局発行の証明書が国籍証明書として届書に添付された場合には,受埋することができないことは,国籍法の規定から導かれる当然の帰結であり,当省においてこれに関連する通達,指針等の行政文書を作成又は取得しておらず

と、断言していた法務省だったが、それに反してかつて
『昭和49年10月21日付戸1976号那覇地方法務局長照会』(日中国交回復後に帰化したとして台湾政府発行の帰化証明書を添付した国籍喪失届の取り扱いについて)
と言う、そのものズバリの問い合わせがあり
『昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答』として

本年十月二十一日付け戸第一、九七六号をもって照会のあった標記の件については、不受理として取り扱うのが相当と考える。

と、回答があることを筆者は「たまたま」知った。2019年に開示請求したとき、法務省の窓口ではこういう文書が存在することを一切教えてくれなかった。
 では、あらためて、この民事局長回答を開示請求したら法務省はどう反応するのだろうか?

情報開示請求・審査請求・答申書

 そこで、2022年7月に、「昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答」を情報開示請求した。例によって法務省では「不開示決定」になった。「審査請求」を出して、総務省の情報公開・個人情報保護審査会で「答申書」を出してもらうと言う経緯をたどった。
 令和5年度(行情)答申 第 172号(令和5年6月29日付)がそれだ。

答申日:令和5年6月29日(令和5年度(行情)答申第172号)
事件名:国籍法における帰化及び国籍選択制度の扱いに関する通達等の不開示決定(行政文書非該当)に関する件
https://www.soumu.go.jp/main_content/000889465.pdf

「国籍法における帰化及び国籍選択制度の扱いに関する通達等」に「行政文書非該当」という「まさかの」文言がついていた。

 答申書中に記された法務省側の主張では、この文書は

「親族,相続,戸籍に関する訓令通牒録(特定出版社)(以下「通牒録」という。)」に記載されており,法2条2項1号により「行政文書」の定義から除かれる文書である

という。
 そこで、情報公開法行政機関の保有する情報の公開に関する法律)を確認した。同法2条2項1号は

 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの

とある。
 「販売目的で発行されるものそのものを「行政文書だから」と開示請求するのは無しだ、というのは、筆者も理解できる。だが、そもそも、「訓令・通達」の行政文書それ自体は「販売目的で発行されるもの」なのか?
 そんなはずはあるまい。官庁が出した、通達・回答といった文書が、後発的に民間出版社が出版したいずれかの書籍に掲載された、ということで、元の行政文書までが、行政文書ではなくなる、という説明は、拡大解釈が過ぎると感じる。

情報公開法の目的

情報公開法はその目的を第一条で

(目的)
第一条
 この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。

としている。現在有効な行政の訓令・通達は、まさに行政文書の代表的なものであろう。

「親族,相続,戸籍に関する訓令通牒録」

 くだんの、「訓令通牒録」なる書籍は、「日本加除出版」から出版されている。

定価63800円。

いや、置き場が無い

 このボリューム感。法律の専門家向けの特殊な書籍であり、一般人がおいそれと入手できるものではない。もし買ったところで置き場が無い。

「訓令通牒録」はコピーできない

末尾にはこのようにある。

>「本書を無断で複写複製(電子化を含む)することは、著作権法上の例外を除き、禁じられています複写する場合には、その都度事前に(社)出版者著作権管理機構(JCOPY)の許諾を得てください。」

>「また本書を代行業者などの第三者に依頼してスキャンやデジタル化することは、たとえ個人や家庭内での利用であっても一切認められておりません。」

著作権法13条

一方、著作権法13条1項2号では、次のような著作物は、著作権の目的とならない、とされている。

(権利の目的とならない著作物)
第十三条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
(中略)
二 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。以下同じ。)又は地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
(以下略)

13条1項2号の国が出す「告示、訓令、通達その他これらに類するもの」については、「一般に広く知らしめるべき」であり、「制約を設けずに複製を自由に行わせて拡散を促進すべき」と言う趣旨から著作権の保護対象から外れているのだろう。

 だから、本来の行政文書である、「訓令」「通達」などについては、著作権の権利の目的とならない。ところが、書籍の「訓令通牒録」では、出版社の著作権にかかる・経緯・背景・法令解釈・解説といったものが随所にちりばめられており、著作権の権利対象外の部分(元の行政文書)との分離が容易ではない。
 そのせいで、問題になる行政文書部分だけをコピーして関係者の研究用等に配布するようなことも、簡単にはできなくなってしまう。

巧妙な「コピープロテクト」

これは巧妙な「コピープロテクト」だろう。「行政機関の保有する情報の一層の公開を図り」という情報公開法の目的に反し、著作権法13条の告示、訓令、通達その他これらに類するものを著作権(コピーライト)の目的としないと言う条文の趣旨も裏切る形で、一般人による行政情報の拡散を困難にしていることになる。

通達の行政文書はオンラインで公開を

 そこで、今回のタイトルに書いた通り「通達の行政文書はオンラインで公開を」と提案したい。
 「訓令通牒録」の記述の中で、出版社が付け加えた、著作権の対象となる部分「経緯・背景・法令解釈・解説」という部分の記載については、内容の重要性、付加価値があることは十分理解するが、法務省が行政文書の情報公開を阻む理由付けに使われるのは、「訓令通牒録」の出版元としても本意ではないのではないか?

 「書籍の価値」はあくまでも付加価値の部分で勝負していただくとして、本来広く公開されるべき「告示、訓令、通達その他これらに類するもの」そのものの部分については、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのような形で公開されるべきではないか?

 特定出版社が、国が発する告示、訓令、通達の情報を独占的に囲い込み、一社のみがそれを出版し、その他の者には、元となる情報にアクセスさせないというのは、著しく不公平だと思う。だいたい、民間の出版社が出した文書の内容が正確であると、誰が保証するのだろうか?

 日本加除出版株式会社様に置かれましては、「訓令通牒録」出版のために、法務省から入手している行政文書につき、「経緯・背景・法令解釈・解説」などを付記しない、オリジナルの状態のまま、インターネット上で無償公開していただきたいと思う。
 もしくは、書籍化の済んだ訓令、通達等のオリジナル文書を国立国会図書館デジタルコレクション等に寄贈して、だれでも閲覧できるようにしていただきたい。
 出版事業の収益は、「経緯・背景・法令解釈・解説」といった「付加価値」部分から生むべきで、本来公開されるべき行政文書を「独占」することを収益の源泉にすべきではないと思う。  (以上)

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