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通達の行政文書はオンラインで公開を(上)

「情報公開制度」『骨抜き』にする「訓令通牒録」に物申す。


背景事情

 かつて蓮舫氏の「重国籍問題」なる話が騒がれたときのこと。
 蓮舫氏は『日本』と『台湾』の国籍を持っていて、国籍法で「国籍選択」をする義務があったのに、履行していなかったと報道された。
 だがそれより前に、「日本側の扱いでは『日本』と『台湾』の間では国籍法上の重国籍の問題は発生しない」と聞いた覚えがあった。私の聞いた内容が正しければ、報道の前提が間違っていたことになる。
 いずれにせよこのあたりの根拠情報を調べて整理しておきたかった。

国籍法11条1項

 日本の国籍法には、日本国民が「自己の志望によって」「外国の国籍」を取得した場合に、日本国籍を失う、という規定がある(国籍法11条1項)。
 この条文は、明治32年(1899年)の日本最初の国籍法(旧国籍法20条)からから一貫して存在している。そしてこの条文を根拠に、「日本は重国籍を認めていない」と説明されることがよくある。

日本国民が台湾当局に帰化手続きをすると

 では、日本国民が、「自己の志望によって」「台湾当局の籍」を取得した場合には、どうなるのか? この場合「(日本国民が)台湾当局の籍を取った」と言う理由で日本側に国籍喪失届を出しても受理されないという。
 だから、日本国籍も残るし、新たに取得した台湾籍も台湾側では有効である。この立場の人は、当然に「日台」の「複数籍」状態になる。
(なら、この状態が義務違反にあたるわけがあるまい・・と筆者は思う。)

この扱いが意味すること

 日本側での、この扱いが意味することは、「台湾当局の籍」は国籍法11条でいう「外国の国籍」には該当しないと言うことではないのか? 
 国籍法11条の条文を根拠に、「日本は重国籍を認めていない」などと説明されてきたことを考えあわせても、国籍法11条の対象にならない『台湾当局の籍』は、そもそも国籍法上の『重国籍扱い』の対象外ではないか?

不毛なやり取りを避けたい

 だが、まず、こうした「台湾当局の籍の扱い」の事実が一般には知られていない。「日本国民が台湾当局に帰化手続きしても、日本国籍を失わない」と言う事実を筆者が挙げても、それを「デマだ」と、決めつける人もいる。
 なので、前提となる事実を、まずは、はっきりさせたい。「デマかどうか」の不毛なやり取りで消耗するより「この扱いがデマではないと言う事実」を確認したうえで、制度を議論する方がよっぽど有意義だ。

情報公開請求

 そこで、2019年、筆者は「情報公開請求」というのを試してみた。
 日本国民が、台湾の籍を併有する場合に国籍法でどう扱っているのか、説明根拠となる通達などの開示を法務省に請求した。
 だが「行政文書不開示決定通知書」というのが出されて

開示請求にかかる行政文書を保有していないため、不開示としました。

で終わってしまった。台湾籍の扱いに関して、なんら文書を持ってない、と行政側(法務省)は言い張るのである。門前払いである。

審査請求

 「そんなわけないでしょう? たとえば、日本人が台湾に帰化したときにどう扱われるのか、とか、何らかの文書があるはずでしょう?」 との趣旨で「審査請求」をしたら、
 情報公開制度を管轄する総務省の「情報公開・個人情報保護審査会」に諮問が行われ、審査会からは「答申 令和元年度(行情)295号https://www.soumu.go.jp/main_content/000654465.pdf
が出た。その後、法務大臣名での「裁決書」と言うのをもらった。
 そこでは、

1本件対象文書の保有の有無について
(1)本件対象文書については,次のとおり当省で作成又は取得したものはなく,東京法務局においても作成又は取得していない。
(中略)
ウ また,国籍喪失又は国籍離脱の手続の際に,台湾当局発行の証明書が国籍証明書として届書に添付された場合には,受埋することができないことは,国籍法の規定から導かれる当然の帰結であり,当省においてこれに関連する通達,指針等の行政文書を作成又は取得しておらず,東京法務局においても作成又は取得していない。

と、「文書は無い」し「作成も取得もしていない」と、断言されてしまった。(注:「当省」は法務省のこと)
 「素人さんにはわからんだろうけど、それ『当然』のことだから、行政文書で書くまでもないんだよ」と、鼻で笑われたようで少々イラっとする。

 でも、ここでは、思わぬ大事なことがサラッと述べられている。

※「国籍喪失又は国籍離脱の手続の際に,台湾当局発行の証明書が国籍証明書として届書に添付された場合には,受埋することができないことは,国籍法の規定から導かれる当然の帰結」

 おそらくこの部分、一般にはほとんど知られていないことだろう。(仮に知られていたならば、蓮舫氏の国籍問題はあのような経過を辿らなかったのではないか。)それにしても、「そういうこと」なら、開示請求した最初の段階で、そう説明してくれよと思う。
 「文書は無い」と突き放すのではなく、
 「文書は無いけど、(日台間では)国籍喪失も国籍離脱も受理しないのは事実で、それは当然」というふうに、ほんの少しだけ親切に説明を加えてくれたら納得できたろうに。
 まあ、この様な経緯があったのが、2019年のことだったわけだ。

答申書じゃ弱かった

 前述の公開文書、「答申 令和元年度(行情)295号」にも、14頁に

という一文がある。
 とはいえ「総務省の情報公開・個人情報保護審査会が、筆者の審査請求に関して、法務省に聞き取りして出した公開の答申書には、こうありますよ」と言ったところで、「目を通してみよう」と思ってくれる人はなかなかいない。
 同じ「行政文書」とはいっても、情報公開審査会の答申書では「弱いなあ」という気がしていた。
 「法務省第○○号通達によれば・・」というように示せれば、説得力が格段に違うだろうに・・・。
 だけど法務省からは当省においてこれ(国籍喪失又は国籍離脱の手続の際に,台湾当局発行の証明書が国籍証明書として届書に添付された場合には,受埋することができないこと)に関連する通達,指針等の行政文書を作成又は取得しておらず」と断言されちゃったしなぁ、とあきらめていた。

行政文書あったじゃないの!

 そして、3年の年月が流れた。
 過去に那覇の地方法務局長が、そのものズバリの「照会」をおこなっていて、法務省民事局長が回答していることを2022年になってはじめて知った。

『昭和49年10月21日付戸1976号那覇地方法務局長照会』

 日中国交回復後に帰化したとして台湾政府発行の帰化証明書を添付した国籍喪失届の取り扱いについて 
 日中国交回復後に中華民国に帰化したとして台湾省政府発行の帰化証明書を添付し国籍喪失届があった場合の取り扱いについて、このたび別紙証明書を添付して国籍喪失の届け出がなされたが、該証明書により中国国籍を取得したものと認め、所要の手続きをすべきかどうかにつきいささか疑義がありますので、何分のご指示を得たく、照会いたします。

という、問い合わせがされたのに対し、『昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答』で、

本年十月二十一日付け戸第一、九七六号をもって照会のあった標記の件については、不受理として取り扱うのが相当と考える。

と、回答されていた。

 これ、法務省は故意に情報を隠したのじゃないか?こんなにはっきりした「法務局長通達」があったのだ。

 国籍喪失又は国籍離脱の手続の際に,台湾当局発行の証明書が国籍証明書として届書に添付された場合には,受埋することができないことは,国籍法の規定から導かれる当然の帰結であり,当省においてこれに関連する通達,指針等の行政文書を作成又は取得しておらず

という法務大臣の「裁決書」における説明が、全部おかしいことが見えてきた。
 国籍法の規定から導かれる当然の帰結
・・
だというならば、行政の専門家である那覇地方法務局長がわざわざ本省にお伺いを立てる必要もなかっただろう。
 当省においてこれに関連する通達,指針等の行政文書を作成又は取得しておらず
・・
というのも全く不正確だったことになる。あまりに不誠実だ。

 そこで、もう一度「情報公開請求」をしてみることにした。今度は、『昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答』をズバリ指定して開示請求した。
 ここまではっきり特定して開示を請求すれば、もう「当省においてこれに関連する通達,指針等の行政文書を作成又は取得しておらず」なんてごまかしはできまい。

 さて、法務省はどう回答するだろうか? ((下)へ続く)


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