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アイドルになるまで(2)
アイドルの応募要項は、就活の履歴書とそんなに変わらなかった。
個人情報
性格
特技
志望動機
自己PR
具体的には覚えていないけど、似たようなことが書いてあった。学歴と職歴を省いて、代わりに関連の活動経歴などがあった。形がそんなに変わらないけど、アイドルを応募する事において気持ちが全然違った。
一番違ったのは、嘘をつかなくてもいいことだ。
就活の時に今までの人生が全て無駄のように感じた。大学の専門も、アイドルのダンスカバーも、メイドカフェのバイトも、私にとって大切な時間が全て無意味だった。
本当に書いてもいいの?
自分の中で自問自答を繰り返しても結局書く自信が出てこなかった。面接の時にそれぞれの意味を聞かれたらどう答えるの。私にとって理由がとても簡単だった。楽しいからやってる。本当にそれだけ。でもこう答えたら頭悪そうに見えるじゃないかと心配が止まない。そんな楽しい時間がどれだけ自分を変えてくれたのを、どれだけの意味を持つのかを自信を持って履歴書に書いて、聞かれたら正々堂々と答える人になりたかったが、私は臆病者だからできなかった。あまりにも周りのエリートたちと違かった。他者の目線になって自分がどう見られてるのを考えたらいっそう不安だった。
アイドルの応募に臨む際、今まで生きた時間が全て無駄じゃない気がしてほっとした。素の自分を語ってもいい所があるんだと感動しながら応募用紙を書いていた。むしろ自分を語れば語るほど自分がもしかしたらアイドルに向いてると感じた。
アイドル性は何なのかが今もよくわからないけど、昔からアイドルぽいって言われる事が多くて、少し考えてみた。私は人を楽しませることが好きだ。人の前ではいつだって笑顔を忘れない。怠け者で、自分のために頑張れないけど、人のためなら頑張れる。
メイド喫茶店でバイトしたことがある。そこで初めてファンができた。私より可愛い子が沢山いたので決して人気者ではない最初。私のためにきたお客さんがいなかったが、ぼっちのお客さんを笑顔で接して、話しかけて、メイドカフェに来て良かったと思ってもらうように心掛けた。そうするとどんどん私のために来るお客さんが増えた。そもそも体力がない人間ですぐ疲れるタイプのくせに、忙しい時でも元気に働く自分に驚いた。無理する事なく、ただ楽しく働いていた。「アイドルぽい」と初めて言われた。人を楽しませることが好きだって自分の中で確信を得た。
未来の自分。
やりたい仕事。
就活の時にピンと来なかったが、アイドルの募集を見た瞬間、はっきりとした答えじゃなくても、なんか、本来のままの自分を受け入れてくれる場所が見つかった気がして、嬉しかった。
私にとって、アイドルはシェルターだ。
いつかは出て行かないと行けないが、しばらくは優しい人たちに囲まれて、好きな事をしながら、ゆっくりと自分のことについて模索していくそんな時間の猶予を許してくれる場所だ。
もう20代の社会人のくせにアイドルをやるなんて中途半端だなと思われるかもしれないが、私は本気だった。「シェルター」と言っても、逃げてる訳じゃない。私は真面目にアイドルをやっているし、遅れていても、自分自身について、将来について、懸命に考えている。
で、私がアイドルになった。
夢見る頃を、過ぎても。
それは私が出した答え。
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