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【短編小説】手の中の私

私は少年に首を絞められた。苦しくなって世界の色が失われていく中、思い出が走馬灯のように流れていった。

私は小さい頃から親元を離れて生きてきた。
幸い周りには友達がたくさんいたので、寂しいと思うことはなかった。また、私は昔から体を自由に動かすことができなかった。その代わりに、たくさんものを見て、いろいろなことを感じとってきた。

燦燦と光輝く黄金の太陽。
世界を包み込む青蒼の空。
無限に広がる新緑の大地。
私が見る世界、そのすべてを愛していた。

いつのころだったか、少年と少女が遊んでいた。二人は喋ったり、ボールで遊んだり、おままごとをしたりしていた。そんな二人を端から見るのも大好きだった。二人は晴れた日は決まって遊んでいたが、急に少女が来なくなった。たまに少年が一人で来てボールで遊んでいたが、やはりどこか寂しそうだった。そして、周りを見て誰も来ないことを感じとり、とぼとぼ帰っていく、そんな姿を見て何かあったのだと私は思った。

そして、今日。雲一つとしてない快晴。最近来ていなかったあの少年が、うれしそうに、だけどあわてた様子でやって来た。少年は何かを探すように、辺りを見渡していた。私と視線が合った。その瞬間、少年の探し物を察した私は、直視する彼に向って自然と声高に呼びかけていた。
「あなたの力になってあげる。」
少年はその言葉に応えるかのようにゆっくりこちらに近づいてきて、申し訳なさそうに
「ごめんね。」
とだけ言って、私の首に手をかけた。優しくても強い力によって、私は呼吸ができなくなって意識が遠のいて行った。

――― 人のためになるのも悪くないかな。

少年が病院の前に一人で待っている。何をするわけでもなく、ただじっと。
しばらくすると、病院の奥から車いすに乗った、あの少女が看護師に押されながら現れた。二人の目が合うと少年はうれしそうに少女へ近づき、
「おかえりなさい。」
そう言って手に大切に握られていた一輪の花を手渡した。
「お祝いに、いつも遊んでいた公園のタンポポ。また一緒に遊ぼうね。」
少女は少し驚いていたが、ありがとうと言って受け取った。タンポポを見つめる少女には、笑顔が咲いていた。 



終わり
R.Bird

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