見出し画像

昭和12年のお嬢様料理余談「冷蔵庫」

 一つ前の記事「蟹のコロツケ」のリベンジを考えていると、ホワイトソースを冷やす・凍らせるというのはどうかというアドバイスをいただいた。

 それが当時、可能だったのかどうか、知りたいなと思って記事をつらつらみているうちに、発見しました。

冷やすのか………貯蔵するのか
冷蔵庫の正体 —保健上危険な考え方—
(昭和12年8月号記事・原文)

食品を貯蔵するにはその目的と品質とによって、いろいろの方法がありますが、生物(なまもの)の悪変化を防ぐにも徹底的に殺菌する方法とばい菌の発育を一時抑えておく方法とがあります。
たとえば魚を冷蔵庫に入れて蔵(しま)っておくということは、決してばい菌を殺(さつ)すのではなく、魚のばい菌の発育を一時抑えておくのですからこの点をよく理解しなければなりません。高温や塩蔵法は別としまして、寒気を利用する貯蔵方法として冷蔵庫すなわち『アイス・ボックス』を用いて、夏いろいろの者を貯えることが普通常識となっておりますが、『アイス・ボックス』は、食品を貯える上においては非常に不完全なものであります。夏期氷蔵庫を開けて見て冷たく感ずるのですが、この温度を測って見ますとあまり冷たくないのであります。これを想像してみると、摂氏の二十度位だと思われます。『アイスボックス』の標準とする温度は普通摂氏の十度であります一般に冷たいビールやサイダー、飲み物を冷(ひや)し、寄せもの等に利用することは別問題として、食品を貯えるに用いるには『アイスボックス』は余程注意しなければ却って危険な場合があります、『バクテリヤ』の発育は二十度前後でも、相当に時々刻々に行われつつあるのであります、従って冷蔵庫に入れておけば比較的長く保つということを考えて居ることは、保健上危険なことであると言えます。但し機械冷蔵庫は別であることを考えねばなりません。
最近国産品として声価を高めております、機械冷蔵庫に三菱ML——一三二型電気冷蔵器があります。完全貯蔵という本旨からいって、食物は摂氏十度以下でなくっては、完全に保存することが出来ません。『アイスボックス』は氷が解ける。従って、温度が次第に上昇して完全なる食物の保管が出来ぬのでありますが、電気冷蔵器はこの危険線以下の温度を常に保ち、且つ自働的に製氷ができるから安心して食物の貯蔵ができるのです。ビールサイダーはいつも冷たく、角氷はいつでも出来、突然の来客に便利であり、アイスクリームや色づけの氷菓も自由に出来、又長時間食品を貯蔵することもちろんで、而もその消費の電力料金は真夏十時間として約五銭で済み、電灯線や電熱線からでも簡易にスイッチを入れるだけですから至極軽便であります。モートル(註:モーター)が過熱したり電流が多く流れたりすることを安全にする装置もあり、温度は希望通り自働的に動いたり止まったりすることは、電気冷蔵器共通の特徴ではあるが、三菱電機冷蔵器の温度調節器は三菱独特のもので、七段の切換が出来、運転を続けながら、器内の霜を解かすことの出来る目盛や、経済調節の目盛もありますから、どんな素人や小供でも容易に調節が出来、完全に食物を保存することが出来るのは、この三菱電機冷蔵器のみ許された唯一の誇りであると思います。
(※漢字・仮名は現代語に改めました)

 冷蔵保存と衛生管理の記事、にみせかけた、三菱冷蔵器礼賛文!

 長いので、太字のところだけ見ていただいても平気です。全文読むととても面白いのでおすすめですけれども! 冷蔵庫教(冷蔵庫に入れておいたら、消費期限は凍結されると信じていること)はこの頃からあったんだなーとしみじみできます。

 あれこれできることを並べて、電気代のリーズナブルさを訴えるあたり、現代の広告文と文法が同じ。80年経っても同じ文言でときめいちゃうってことでしょうかね……。

 昭和5年、芝浦電気冷蔵器が発売された当時、価格は720円だったそうです。三菱ML132型も似たようなところじゃないかと思います。家計調査資料を見ると、当時のサラリーマン家計の年収の約10倍になります。
(5/30修正;数字を見間違えていました。失礼しました!)

 昭和12年当時の冷蔵庫普及率は全国で1万2千台程度だったそうなので、かなりの高級品であるのは間違いないです。「料理の友」の読者層の様子がしのばれます……。お嬢様……。

 結局、戦争の影響で昭和15年には冷蔵器は製造中止になってしまうので、アコガレの家電品のまま、昭和三種の神器に数えられることになったんでしょうね。


 冷蔵庫、いいな……。うちも買い換え時期かもしれない……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?