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【観劇】三人芝居「怪物の息子たち」

於:よみうり大手町ホール

脚本の木下半太氏、演出の毛利亘宏氏は2021〜2022年に放映された仮面ライダーリバイスでそれぞれメインライター・サブライターを務められており、その縁での今作とのこと。
仮面ライダーと言えばクウガしか知らないレベルの門外漢のため、そんな繋がりだとは知らず。
毛利さんの主宰する劇団少年社中のファンなのとキャストの一人、安西慎太郎くんの出演作は極力全てチェックするように心がけているので、のろのろと平日夜の大手町に出かけて来ましたよ。

会場はよみうり大手町ホール。
読売新聞ビル内にある、綺麗なホール。
行ってから気づいたけど、舞台文豪ストレイドッグスで来たことあるな。
私の頭がポンコツなのが悪いんですがよみうり大手町ホール有楽町よみうりホールがごっちゃになって、何で行ったのがどっちか分からなくなる。
名前が似てても青海と青梅くらい離れてれば間違えないのに大手町と有楽町だからそこそこ近い。
興味本位で調べたところ、よみうり大手町ホールと有楽町よみうりホールとの間は徒歩23分ほど。
うーん、微妙。

ホールがあるのは4階。エスカレーターでえっちらおっちら上がっていく、その途中に。

ミャクミャク様だ〜!

正直、万博にはあまり興味ないんだけどミャクミャク様は好き。可愛い。
いいな、このご機嫌なポーズ。可愛い。

と、ミャクミャク様に気を取られながらも入場。

物語は父親の死をきっかけに葬儀場で三兄弟が久しぶりの再会を果たすところから始まる。
この亡くなった父親を兄弟は「怪物」と言う。
怪物は3冊のノートを兄弟に残した。父親が病床で書いた手記、二男・陸久の子供の頃の日記、元漫画家の三男・宇海の書いた漫画の3つ。
これらの場面と葬儀場の場面が入れ替わり展開していく。

手記や日記に綴られた過去の人物も三兄弟役の三人が演じる完全な三人芝居。
アフタートークで長男役の崎山氏も大変だと言っていたけれど役者は結構な集中力を要すると思う。
この演じ分けがとても丁寧だったので今回の役者陣の身一つでも十分表現できたと思うけれど、今作では三兄弟以外の人物、または幼いころの三兄弟に関しては一部の役を除いて役者がマネキンを伴って動くことでよりわかりやすくなっている。
このマネキン、役の演じ分けをわかりやすくするだけでなく、無機質なマネキンが舞台上に大量にあり、かつ動かされる事で怪物、そして怪物である父と共にあった三兄弟の生活の混沌が視覚的に伝わってくるように感じた。
人間は舞台上に3人しかいないのに、常に大人数が舞台上のあちこちで芝居をしているように見える。
アフトでのお話によるとこのマネキンは稽古初日から導入されていたとのこと。
毛利さんが旅先の海外の神殿などで見た銅像にインスパイアされて思いついたアイディアらしい。
葬儀場シーンと交差する父の手記、次男の日記、三男の漫画はそれぞれ落語「死神」などの「神」にまつわる古典のモチーフで形成されている。
怪物も神のなり損ない、もしくは成れの果てと考えれば神の物語が神殿で繰り広げられているわけだ。そういうウラ話エピソードが大好きな私にとってアフタートークはめちゃくちゃ嬉しい時間だった。
マネキンの演出について毛利さんは文楽のようとも表現していた。文楽しかり、人ならざるものが人に操られて芝居をする時、無機質な物に意思が吹き込まれる時、そこにはどこか不気味さが漂うと思っている。
その不気味さが物語の内容にマッチしてクセになる空間だった。

役者陣の会話のやり取りは緻密かつ丁寧。
会話のやり取りで心が動く濃密な会話劇。
会話劇大好きオタク的にはこう言う舞台こそ推しが出たら嬉しい。

三兄弟は怪物である父親に子供の頃から日常的に暴力を振るわれ、大人になってからは彼女を寝取られたり本気で殺されかけたりと最悪な目にあわされている。
父親の元を離れ、バラバラになった兄弟の生活は幼い頃に抱いた夢とはかけ離れた荒んだもの。
きっと人生でうまくいかない事がある度にあの父親に育てられたせい、と思ってきたんだと思う。
けれど元凶である父は死に、殴りたくても殴る頭もなければ問い詰めても言葉は返ってこない。
全てを父親のせいにできる時間は終わってしまった。
残された3冊のノートを通し過去を振り返り、また知らなかった過去の事実を知ることで彼らは怪物の軛を脱し、自分だけの未来に向き合うことができるようになったのだと思う。
怪物のしたことは到底許されることではなく、本人も許されようとは思ってないのだろう。
けれど家族が共に過ごした時間には暴力と憎しみだけでなく愛があったのだと思う。
愛があれば暴力が許されるとは全く思わないけれど、怪物は息子たちを愛していたし、だから息子たちも怪物を憎悪しきれず余計に囚われた。
怪物の息子たちは思い出となった怪物を心の隅に住まわせながらも前を向いて生きていくのだと思いたい。

役者的なところで言うと安西慎太郎くんの芝居には絶対の信頼を置いているので言わずもがななんだけど、今回田村心くんのお芝居が良かったと思いました。
これまでにも何作かで拝見してますが、ここまで役数が多い舞台というのはなく、こんなに幅広く演じ分けできる役者さんだったんだなぁと。

あとアフトの毛利さんがマスコットかよみたいな可愛さでオタクは終始ニコニコしてました。
主題歌のさとう。さんは、高円寺で弾き語りしていたのを毛利さんがナンパしてきたとのこと。
毛利さんのフットワークの軽さ、役者の良さを存分に生かす演出、マジ尊敬する。

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