出航
最初の着姿は酷いもんだった。とにかく見よう見まねで羽織って、帯をどうにか巻いて、YouTubeで見たとおりに結び、袴もどうにか形にしたけれど。したけどさ。
よれよれってこういうこと言うんだろうなという有様。
その状態で文学フリマに行っちゃうんだからたいした根性だと我ながら思う。車で会場まで行ったんだが、途中で寄ったサービスエリアのスタバで褒められなかったらたぶんいまいちな一日だったんじゃないかと思う。それくらいよれよれだった。
それでも、何度か着ているうちになんとなくポイントがわかってきた。わからないなりにわかってきたというほうが正しかったかもしれない。
欲が出てきて、デニム地の新品を安価で手に入れたり、古着でえいやっと買ったりもした。
最初のほうに買った古着はぶっちゃけて言うとサイズが合わなさすぎてたぶん袖を通すことはないんじゃないかと思うものもある。派手にしみがついているやつもあるし。
で、当然買うのも楽しくなっちゃって、角帯やらなんやら買い集めだした。一枚の着物に三本の帯という呪文を唱えつつである。そりゃ増える。増えるんだよ。買うようになると意味がわかる。
長着を買う→合う帯がない(気がする)→帯を買う→他の長着と合わせたくなる→長着を買う
というループ。あるいは「着丈が合う」「裄丈がギリギリ許せる」という、いま持っていない、わりといい感じのものを見つけた(気になっている)から買わないと次はないんじゃないか、みたいな。
まあ、そんなこんなで、亀甲絣という柄のものはあっという間に色違いで揃ってしまった。揃ったって言うか、これ、似たようなの持っててもしかたないな、って言う状態になった。
◇
話があちこちに飛ぶ。2回くらい着物を着て出かけた頃に、「きもののここち透佳」さんに行く機会があった。麻に関する展示をやっていたのだ。大麻(おおあさ)から作る生地とかそういうのを見せてくれるという。大麻博物館からいろいろ借りてきたとおっしゃっていたんだっけか。
そもそもなにで見つけたのだったか(たぶんインスタか、Facebookかどっちか)、ふだんそういう店(和服を扱う店)にひとりで入ることなんか絶対にないのに、行っちゃったんである。なんの予備知識もなしに。なんなら書生さんコスプレしかしないくらいの状態で。
おそるおそるお店に入り、展示を見に来たことを伝える。動画を見せてもらい、資料を見せてもらい、説明を聞き、着物の話をした。
縁というのは不思議なものだと思う。展示を見て説明を聞いて(話だけ聞いて何も買わずに!)帰ってきたのだが、その時にいろいろ見せていただいて、中古でないならいつか自分サイズで作ったらいいな、と思ってしまったのだった。まあ、思うよね。男物ないんだもん。新品で買ったら6桁は下らないといわれる金額……と思っていたら、木綿とかで作ったらうっかりすると既製品のスーツくらいで買えるってことがわかってしまったからだ。
◇
その頃のはてなブログを見ると、偉そうにいろいろ書いているな。自由研究でわかったこととか調べたことを書き連ねているような感じだ。好き嫌いもわからないまま、正統派とラフな着方の区別もないまま書いているので、今の自分の着方とは合わない部分もなくはないけれど、誰かの役には立つだろうか。
今にして思えばせっかく買ったものを何度も着て、慣れていけば良かったのかもしれない。でも、ちょうどいいサイズのがないんだし、買いあさるのもしかたないか。
ヤフオクで買ったときも成功したんだか失敗したんだかよくわからなかったしなあ。あれは初心者じゃなくて中上級者向けかもしれない。いい業者がわかるまではなー。よく聞く大手とかもそこから買うだけならそんなに悪くないんだけど。
そうこうしていたら、コロナ禍に突入してしまった。
あの頃はまだ(今から思えば)たいしたこともなかったのだけれど、急に着て出かける機会が減ってしまったのだった。なのに物は増えていく不思議。ストレスがだいぶたまっていたと思う。たぶんだけど。
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