台風コロッケ

昨日からさんざんニュースで言ってたのに、いつも通り会社に行って電車が止まってから帰ってもいいとか言われる。無理やりにでも休みにしておけばよかったと思うけれど、もう遅い。駅には人があふれていて、電車はもちろんバスもなにもどうしようもない。
なんとなくスマホで検索したら近くのカプセルホテルが空いているようだったからさくっと予約して、今日は家に帰るのは諦めた。一人暮しだから出来る芸当かもしれないとも思う。

雨を避けて入った駅ビルの地下には、いつもより人があふれていて、この時間ならまだありそうな弁当もなにも残ってはいなかった。ここから適当な店に移動するのもめんどくさい。なんでもいいから腹に入れるものを買ってしまいたかった。

台風の日はコロッケ! 1コ 60円

便乗にも程があるだろ、という値札を見て笑ってしまう。うしろにいたお姉さんも「なにこれウケるんだけど」と友だちらしき人と笑っていた。
念のため16コ買うんだっけか。そんなに食えるわけないよな。
ガラスのむこうでは黙々とコロッケを揚げる店員。本当は彼も早く帰りたいと思っているんじゃないか。そんなことを思いながら、油に入れ、いい匂いを漂わせる作業をじっと見ていた。

店員が顔を上げる。目が合う。笑顔になる。

瞬間、自分の腹が鳴り、誰かに聞かれたんじゃないかと周囲を見回す。目を戻すと店員がさっきよりも笑っていた。恥ずかしい。
「すみません、牛肉コロッケ三つください」
空腹と値段に負けて買ってしまった。人のあふれるイートインコーナーの隅で一つ口に入れた。ざくりという音と、甘くて、胡椒の効いたじゃがいもの味がうまい。

一つ食べきると外に出る。雨足はさっきよりも強くなっているけれど、しかたない、今のうちに移動してしまおうと思う。腹の中が熱いうちに。


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