ぬいぐるみ語り(3)


わりと古株のギンガム氏

落とし物拾ったんですけど、と、当時働いていた職場の事務所に届けられたのがこのクマ。青いギンガムチェックのぬいぐるみだ(以下ギンガム氏)。
落とし物ということは当然誰かのもののはずなので、しばらくは一目につくところに「落とし物です」とメモをつけて置いてあった。しかし保管期間が過ぎても誰も取りに来なかった。今ならSNSなんかで持ち主探したりするんだろうけど、そういう時代ではなかったし。

職場のおばさんが「落とし物処分しちゃうね」とゴミ箱に捨てそうになったので「だったらもらって帰る」ともらった。それ以来うちの一員となった。とはいえ、もともとは他の人の所有物なので、仕事中も見えるようにポケットに入れていたりしたのだった。やっぱり誰もが名乗り出ては来なかったので、今度こそうちの一員になった。
初めの方こそ不安そうな顔をしていたが(自分の脳内では)、先にいたクマ氏なんかが仲良くしていたのだろう、わりとすぐに馴染んだように思う。今はたくさんのぬいぐるみに囲まれてニコニコと暮らしている(自分の脳内では)。

さて、このギンガム氏、自分と一緒に出かけることが多かった。過去形なのは最近お供するぬいぐるみが交代したからだ。それは項を改めるとして(続くんかい)。
上着の胸ポケットやリュックのサイドポケットにすっぽりと収まって、一緒に出かけた。もともと拾われたという出自だからか、家でじっとしているよりは外に出かけるほうが性に合っているようだった。
自分はぬいぐるみを被写体にして撮るということはほぼしないので、本当にただ出かけるだけだ。もしかして突然いなくなったり、誰か他の人の手に渡るかもしれないが、そのときはそのとき、ギンガム氏の意思で旅立ったのだと思うことにしていた。結果的に紛失したり人手に渡ることはなかったが、一人旅のお供としては優秀だったのだろう。
人混みの騒音が頭の中で暴れているときや、心細くなったときなどに目をやると「大丈夫!」という顔をしているので、まあ、大丈夫だったんだと思う。
(という設定ではあるが、実際のところ、ぬいぐるみを携えて歩き回る中高年男性、って、それだけで怪しさ300%なので下手な行動には出ない・出られないという話ではある。余談だが、本当に騒音に耐えられないときはノイズキャンセリングイヤフォンを音楽なし、ノイキャンのみ作動の状態で突っ込むといくぶん落ち着くのだった)

リュックのサイドポケットから顔を覗かせている姿は子供のようであった。「見て!あそこ!」と言われているような時もある。飼い犬がクルマの窓から顔を出していたり、子供があちこち気になって仕方ない、というようなことを投影していたのだろう。
最近は一緒に来てくれるニンゲンがいるので、氏のお供がなくても大丈夫になった、ということなのかもしれない。

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