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たまたま読んだ本09:小説 「日本ゲートウェイ」コロナ禍でどん底の老舗百貨店と飲食チェーン、そして大手商社が組んだ目から鱗の再生構想とは? 

日本ゲートウェイ

失われた30年で経済成長もできず、その上コロナ禍で苦境にあえぎ、疲弊する日本経済。アフターコロナに向けて、起死回生の秘策はあるのか。

経済小説の面白みは、現実世界の経済活動を描く点にある。
折しも、そごう、西武百貨店の売却問題がニュースをにぎわせているが、
どん底百貨店の目から鱗の起死回生策に、本の帯で全国の首長、社長は必読!アフターコロナをチャンスに活かせ。今こそ日本は世界に飛翔する!を訴える。

小説には現実社会に即したビジネスの仕組みが描写されることになる。
現実そのままではないが、ビジネス社会に生きる人々にとっては、
大きなヒントになることだろう。

物語は、オリンピックのインバウンドを当て込んで改修した老舗のマルトミ百貨店がメインバンクに追加融資を求める。
が、断られてしまう。
社長の冨島栄二郎が意気消沈する姿を前の同僚、大手商社、四井商事の徳田創専務に見られ、窮状を訴えることになる。

一方、同じく商社同期の山崎鉄郎は、町長となり、元気な高齢者施設、プラチナタウンをつくり、同時に冷凍食品の輸出業も展開している。
その山崎に、地方の薫製工場のネット通販の打開策の相談が入る。

そこに飲食店チェーンの築地うめもりの若い女性職員、滝澤由佳が訪ねてくる。社長からアフターコロナを見据えて、新規事業の考えるよう指示を受けて相談に来たのだ。

屋上に遊園地を置き、シャワー効果で経営してきた百貨店もビルの構造とともに時代の変化について行けず、従来のデパートビジネスが成り立たなくなっていた。
徳田に山崎の紹介を受け、時代に即した業態転換案を相談することになる。

幸いプラチナタウンには、やはり四井商事前同僚の牛島幸太郎がおり、
大手広告代理店にいた川俣俊治も住んでいた。
山崎、牛島、川俣、そして滝澤らがアイディアを持ち寄り、
新業態を発想し続けることになる。
一企業の再生だけでなく、
過疎化進む地方の活性化に一助となるビジネスとは何か。

その裏で、冨島社長を解任する動きが、妹寿々子の手で進められる。
そこにメインバンクの頭取も絡む。
四井商事も海外に向けた目論見があり、事は複雑に絡んでくる。

と、物語は現実社会の血なまぐさい一面を見せながら、マルトミ百貨店の再生策を作り上げていく。

なるほどその手があったか。
全国の首長、社長は必読!というだけのことはある。

どんな事業でも、不便を便利にすることに勝機があるようだ。
今はやりのネットによるマッチングは、不便を解消するツールだ。

ただ、この物語、都合良すぎたキャスティングだ。
人材が揃いすぎだし、肝心の富田社長はリーダーとしての指導力はない。
中でも触れられているが、目指すゴールがリーダーの頭の中に明確にあるかどうかが明暗を分ける。
四井商事から人材が送り込まれるわけだ。

いずれにせよ、小説の中のアイディアは、面白い発想だ。
ぜひ、全国の首長は参考にしていただき、便利な社会にしてほしい。
ただし、アイディアを実際に運営していくことはかなり難しいかも知れない。事業の内容のヒントは、本のタイトルにある。

小説に出てくる高知のひろめ市場には何回も行ったことがある。確かに居酒屋のフードコートとも言えなくもない。ただ、高知人は酒に強いかも知れないが、昼間から飲んでいるのは、観光客ではないのだろうか。行くたびに地元より観光客が多い気がしたものだったが。


日本ゲートウェイ
全国の首長、社長は必読!
アフターコロナをチャンスに活かせ。
今こそ日本は世界に飛翔する!

出版社:祥伝社
発売日:2023/3/9
ページ数:323ページ
定価:¥1,870

著者プロフィール
楡 周平(にれ しゅうへい)
1957年生まれ。米国系企業に勤務中の96年、30万部を超えるベストセラーになった『Cの福音』で衝撃のデビューを飾る。翌年から作家業に専念、日本の地方創生の在り方を描き、政財界に多大な影響を及ぼした『プラチナタウン』をはじめ、経済小説、法廷ミステリーなど、綿密な取材に基づく作品で読者を魅了し続ける。著書に『介護退職』『国士』『和僑』『食王』(以上、祥伝社刊)他多数。

トップ写真:ラムズイヤー


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