腕や足に赤い点々があらわれた話
あれは遥か昔、私がハタチ前後の頃。
ある日突然、腕や脚のあちらこちらの皮膚に赤い点々がポツポツあらわれた。
なんだこれ!?
思い当たる節が無く、悪い病気かとビビった私はかかりつけの内科クリニックに駆け込んだ。
「あっ、あの!体のあちこちに赤いのが出たんですけど!!!」
医師は当時40代半ばから後半くらい。
クリニックを開業したばかりで、とても穏やかで優しくて紳士的で丁寧で診断が的確。
とても信頼できる先生だった。
その先生が、私の肌の赤いドットを見て悩んでいらっしゃる。
今から考えたら、内科よりまず皮膚科に行けば良かったのに、その時は慌てていて、家から近いこのクリニックに飛び込んだのだった。
先生は私に色々聞くも、私にも心当たりは全く無い。
すると先生は意を決したようにこう言った。
「例えば、便秘をしていてトイレでうんと力んで踏ん張ったとか、ないですか?」
と。
なんせその時私はハタチそこそこ。うら若き乙女にトイレで気張ったかなど、聞くのは失礼じゃ無いかと気遣ってくださったらしい。
ああ、なんて紳士的なの!
「全身に力が入ると、血管に圧力がかかって、こうなることもあるんですよ」
だが、残念なことに、その時はお通じは超快調であった。
結局原因がわからぬまま、保湿剤だけ出してもらって帰宅した。
その日の夜、お風呂に入った時にあることにはたと気付いた。
……あ、これじゃない?
コロコロローラー!
当時チョイぽちゃだった私はバスタイムに気になる部位にこれをコロコロしていた。痩せろ〜、痩せろ〜と念を込めて。
そう言えば、前の晩は普段はやらない腕やらあちらこちらをいつもより念入りに力を込めてコロコロしたんだった……。
ああ〜っ!これじゃんっ!赤い斑点の原因は!!!
先生、頭を悩ませてしまってごめんなさい。私がやりました、これでした……。
風呂上がり、処方された保湿剤を全身に塗りたくりながら、コロコロローラーを封印した。
いや、決してコロコロローラーは悪くない。私が無駄に気合いを入れただけ。
罪の無いローラーには大変申し訳無かったが、またやらかす自信があった私は、ローラーを棚の奥にしまいこんだ。
その後、別件でクリニックにかかった時、先生はソフトな笑顔で
「赤い斑点はどうなりましたか?」
と尋ねてくれた。
「はい、数日経って消えました。ありがとうございました」
とだけ答え、ダイエットの一環のコロコロローラーの使い過ぎだったとは言えずじまいでありました。
先生ごめんね、ありがとうございました。