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私たちが始まるよ 〜大正野球娘。(アニメ)

1.はじめに

 野球を題材としていること、そして何より「大正義(野球娘)」との通称がスレ民の心をつかんだことから、なんJでのみ持て囃された大正時代・美少女・野球を適当に煮込んだネタアニメ、との認識を持っていた。

しかし実際に視聴すれば、以下に記すような魅力の詰まった作品であったので感想を記したい。
このnoteを開設するきっかけの一つとなった作品でもある。


2.概要

 詳細なあらすじは上記公式WebサイトやWikipediaページ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%AD%A3%E9%87%8E%E7%90%83%E5%A8%98%E3%80%82)を参照いただきたいが、主人公小笠原晶子と親友の鈴川小梅をはじめとする東邦星華高等女学院(高等女学校)の生徒らが桜花会を結成し野球を始め、朝香中学(旧制中学)野球部と対戦するまでを描いた1925年(大正14年)を舞台とするアニメーションである。2022年10月25日現在、dアニメストアにて視聴可能である。

3.感想

 Web上での感想と重複するところも多いが、本作品の魅力を以下に語りたい。なお、基本的にネタバレを含む。

(1)丁寧な野球描写

 再三指摘されていることであるが、このアニメの野球描写は丁寧である。白眉は11話にて遊撃手石垣環→一塁手月映静へと処理された内野ゴロの際、一塁手後方をカバーしながら「ワンナウト」の声をかける捕手小梅である(内野ゴロ処理に際する捕手のカバーがしっかりと描写されている)。そのほかにも、遊撃手石垣環・二塁手宗谷雪の軽やかな併殺(2人が桜花会結成以前からの旧友であるという背景事情も踏まえると趣深い)などが描かれるとともに、これらが作品の進行とともに増加する形で登場し、練度の上昇が伺える点も素晴らしい。

(2)”半人前”の奮起と達成

 彼女らが野球へ触れることとなったのは、朝香中学野球部員であった婚約者岩崎荘介に「女性は家庭にいるべき」「女性の社会進出は好ましくない」と言われた主人公小笠原晶子(華族の令嬢である)が、野球にて対戦し婚約者岩崎を見返すべくもう一人の主人公鈴川小梅をはじめとするクラスメイトを勧誘したことに始まる。女性への従順や良妻賢母的規範への従属を求める風潮は無論のこと、運動経験も乏しく、年齢的にも劣後する(旧制中学・高等女学校はいずれも入学資格は尋常小学校卒業であるが、朝香中学野球部員は5年生が中心、一方の小笠原晶子ら東邦星華高等女学院生徒は2年生が中心である)彼女らは苦汁を舐めつつも朝香中学と対等に試合ができるまでの実力を獲得してゆく。

 私はここに、自ら変更できない属性ゆえに権利や活動を制限された者の抵抗と、その奏功を見る。「女性である」というのみで”半人前”として挑戦を否定された彼女たちが最終話までに一定の達成を得たことは、私をとても勇気づけた。
 各話別に見れば、この作品は挫折の描写が多い。メンバー獲得の失敗(1話)から始まって、朝香中学との練習試合での敗戦(3話)、坂下小学校との練習試合での敗戦(6話)、映画スターとしてのデビューの頓挫(8話)など、彼女らは都度挫折を体験する(本節の趣旨とは若干それるが、陸上部では周縁だった胡蝶が桜花会に自身の輝ける場を見つけた5話は、可能性を信じる気持ちを思い起こさせてくれる)。これらの挫折体験を彼女らが一つずつ乗り越えるがゆえに、この作品は勇気を与えるのである。「女性」に限らず、自らの先天的な属性ゆえに何らかの制限を受け、それを克服しようとしている者には胸打たれるストーリーといえるのではないか。

(3)主題歌「浪漫ちっくストライク。」

(2)で記述した本作のテーマを能く反映しつつメロディとしても美しいのが主題歌「浪漫ちっくストライク。」である。
 「目覚めてゆく心どきどき」「プレイボール飛び出せ!」「やってみなきゃわからないでしょ」などのフレーズが、束縛から解放され、歩み始めた彼女たちの高揚感を伝え、サビの「私たちが始まるよ見ててね」はまさに生を燃やしてときめく姿を生き生きと描いている。また2番「女の子だから出来る事があるの」は、自らの変えがたい属性を受け入れつつも、運命に果敢に立ち向かう決意をしなやかに表現しているだろう。全体として、サビ「突き抜けてく空を見上げて」が表すように、爽やかで穏やかながらも生命感にあふれる春風のような印象を与える。
 また、私は音楽的素養はさっぱりなので、メロディやインストゥルメンタルについては「良い」としか言い様がないのであるが、Youtubeのコメントによれば「ホーンの使い方が素晴らしい」そうである。
 なお、「女の子だから出来る事があるの」が聴けるフルバージョンも無論だが、OPにおけるアニメーションとの調和も素晴らしいので、ぜひOPだけでも視聴いただきたい。

(※noteの仕様を未だよく理解していないのですが、特にアフィリエイト等は設定していません。それでもなんかキモい、という場合はググってください)

(4)アンナ・カートランド先生の「自由」への誘い

 「鬼軍曹」ともいわれるアメリカ人教師カートランド先生は、優秀な野球指導者であるのは無論(変化球の指導ができないと言ってはいけない)だが、それ以上に「自由」へのエージェントであるといえる。人力車を引いて合唱部に突っ込んだ環と巴、そして発案者の小梅を決して叱責しなかったこと、むしろ自発的な試行錯誤を評価したこと(5話)が象徴的であるが、カートランド先生は一貫して生徒の自主性・主体性の涵養に勉めているようにみえる。これは現代でも評価されるべき教育的態度であるが、高等女学校における教育が良妻賢母的規範の身体化を旨としていた(無論旧制高等女学校の教育内容は多様であるし、特に私立であればより自由主義的・民主主義的な学校も多数存在したであろうが、一応は)時代背景を前提とするとより重みが増す。晶子・小梅らの活動は、まさにカートランド先生の揺籃において育まれたといえよう。

4.余談

 ちなみに、私が本「大正野球娘。」を視聴するに至ったのは、アイドルマスター XENOGLOSSIAベストアルバムに収録されている「夏空のブローチ 」を気に入って聴いていたところ、作詞作曲の方(rino)が主題歌「浪漫ちっくストライク。」の作詞をされていたためである。
 上記も「問題作」(特に公開当初はファンからの抵抗も強いながら、現在ではロボットアニメとしては評価する声も多い)であるが、そのうちに感想を投稿できたらと思う。

5.参考情報

https://w.atwiki.jp/taisho/

※トップ画像は公式Webサイト(https://www.tbs.co.jp/anime/taisho/)より引用した。


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